ぶっくれびゅー

科学技術と経済の会の機関紙「技術と経済」に書評を投稿したものです

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2002年
0203  転職学−ホワイトカラーのライフデザイン−
0204  なぜボランティアか?−「思い」を生かすNPOの人づくり戦略−
0205  日本のものづくりは世界のお手本なんです
0207  シェークスピアを読み直す
0209  インターネット・サバイバル
0210  今のテレビが使えなくなる日
0211  ユビキタス・ネットワークと新社会システム
0212  ライカM3に追いつけ追いこせ

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2003年
0301  科学技術の新世紀
0302  エコノフィジックス   市場に潜む物理法則
0303  比較日本の会社シリーズ  住宅
0304  21世紀の日本の情報戦略
0305  デジタル著作権
0306  ウエルチ的徹底経営
0307  都市の未来
0308  こどもに教えるITの仕組み
0309  サスティナブルハウジング
0310  ITで人はどうなる
0311  のれん力学
0312  塔に魅せられて  近畿・岡山編

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2004年
0401  個人と会社 税金のすべてがわかる本
0402  韓国はなぜ改革できたのか
0403  新聞記事がわかる技術
0404  産業空洞化の克服
0405  「入門」ユビキタス・コンピューティング
0406  庵を結び炭をおこす
0407  逆システム学
0409 電波開放−情報通信ビジネスはこう変わる−
0410 社会企業家−社会責任ビジネスの新しい潮流−
0412 ユビキタス技術−ホームネットワークと情報家電−

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2005年
0502 年表で読む情報百科

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2002

0203  「転職学」−ホワイトカラーのライフデザイン−

総合労働研究所
1999年10月1日発行
258ページ/定価1400円(税別)
著者 森下 一乗

  ポストバブルの日本経済は浮上の兆しが見えない中、経営環境の厳しさはより深刻さを増している。リストラ策を明らかにした企業の株価が上昇するという現象も見られ、建設業や流通業などにおいては、破綻する企業も現れている。 2001年11月のデータによれば6,780万人中の完全失業率が5.5%(350万人)と上昇している。経営者側では、ワークシェアリング等の検討が開始されてはいるが、早期退職制度を導入することにより経費を削減する施策をとっている。中には早期退職希望者数が募集枠をオーバーする企業も見られる。これらは、職を失った人、新たに職を求めている人が確実に増加していることを示している。
   本書は、中高年層(40歳以上)に焦点を当て、転職希望者や会社事由による早期退職者と定年を迎える方を対象として書かれたものである。本書は1999年に出版されたものであるが、当時より多くの人が注目する内容が書かれている。転職希望者の自己分析の方法やキャリアレポート(履歴書)の書き方の他、面接から入社に至る間に実際に実行しなければならない事について詳細に記述してある。 著者の会社で開発した、「貴方の市場価値はズバリ年収いくらです」と金額を直接提示する「市場価値測定システム」は本書の中で興味深いものである。職歴などを自己申告する「キャリア評価表」の内容から市場価値を測定し、「適正テスト」により、性格や適性をチェックする。さらに「市場価値6ポイント評価基準」等により総合化された「市場価値評価表」の中で、ズバリ市場価値に適した年収を提示するサービスが紹介されている。転職を希望する人のみでなく、目前に転職の意志がない人にとっても、自分の今の市場価値を知る事は大変重要なことであると思う。
   本書の著者である森下氏は、1984年に設立された再就職支援専門会社の社長を務めてきた。最後に、森下氏自身の「私の転職体験」が書かれている。最初は新日本製鉄という大会社に在席したままの出向という形から、ついには小さな会社へ転身を決心した森下氏の生きざまは大変興味深いものがある。転職と言うと明るいイメージだけではないが、森下氏の体験談を読むと、元気と勇気が出る方も多いのではないだろうか。
 
0204  「なぜボランティアか?」−「思い」を生かすNPOの人づくり戦略−
株式会社 海象社
2001年9月29日 初版発行
296ページ/定価1700円(税別)
著者 スーザン・エリス
訳者 筒井のり子・妻鹿ふみ子・守本  友美
   我が国の特定非営利活動促進法(平成10年12月1日施行)に基づく認証数は、平成14年2月8日現在6001団体と急速に増加してきている。社会的な風潮や個人の意識としてもボランティアやNPOに対する関心も高まっている。社員のボランティア活動を支援すべく制度化している企業も見受けられるようになってきた。
 小泉内閣の構造改革が進行中であるが、経済改革では、大量の失業者に対し、NPOを新たな雇用の受け皿と位置づけ、構造改革・雇用対策本部の中間報告では「経済主体としてのNPOの育成」を掲げ、NPO支援のための環境整備を準備中である。
 今年の2月初めに、メロウ・ソサエティ・フォーラムと(財)ニューメディア開発協会主催の「シニア・ネットワーカーズ・カンファレンス2001」が開催され、ワークショップ「シニア・ネットのNPO化を考える」に参加した。そこでは、すでにNPO化して活発な活動をしている団体や、これからNPO化を検討している団体の代表者が多く参加していた。参加者からはそれぞれの立場での運営の実態や悩みが紹介され議論が展開され、NPO化することの得失についても議論が白熱した。我が国のNPOは、まだ経験が浅く手探りの状態にあることを実感した。
   本書の原題は「From the Top Down」であり、1986年初版の改訂版の翻訳である。著者は「ボランティアとの協働の可能性を探っている読者に何らかの示唆を与えるもの」でありたい、と記している。本書の内容は、ボランティアを選ぶ理由、プログラム(仕事)の計画における基本的な事項、職員との関係、チームワークづくり、資源投入に対する効果測定、財政的価値評価、予算計上や資源配分、法的問題、などNPO活動全般ついて必要とされることが網羅されている。
 本書で特筆すべき点は、読者としてねらっているのが、理事長、事務局長、運営責任者など、トップの意思決定者という点である。アメリカ的な発想と言えるかも知れないが、第8章の「役員としてボランティア活動をする」や第12章の「役員の役割をチェックする」は、我が国のNPOにおいても理解し実行すべきことが多く示されている。また本書は、ボランティアを直接監督助言する立場の職員にとっても、NPOの基本的な考え方と具体的な運営方策を知るうえでも時機を得た貴重な参考書と言えよう。
 
0205  「日本のものづくりは世界のお手本なんです

株式会社 ウエッジ
2001年10月25日 第1刷発行
325ページ/定価1800円(税別)
著者  赤池 学  
 
 日本における「ものづくり」と言うと、ハイテク機器の大量生産に欠かせない金型やNC加工マシンなどが思い浮かぶ。これらは日本の経済発展を牽引してきた原動力であり、重要な「ものづくり」の例である。本書でももちろん、これらに関連する事例も盛り込まれているが、「ものづくり」をもっと広く捉らえて、4つの項目を掲げ、54の具体的な事例を紹介しコメントしている。
 「第1部―歴史を活かす」では、伝統を肯定し、否定するという温故知新の実践をいかに次世代的コンテクストの中で活かしていくかという観点で、土佐和紙抄紙技術のITへの活用など14の事例を示している。
 「第2部―生物を活かす」では、生命に学び、生物を活かすものづくりとして、動物力・植物力・昆虫力・微生物力を活かした機能性開発研究や用途開発の現場をレポートしている。カイガラ虫のロウでつくる情報記録材など14の事例が取り上げられている。
 「第3部―人間を活かす 」では、十分活用してこなかった人材の活用、新しい市民参加など、「人間連携によるものづくり」のモデルとして、地雷探査の新システムなど12の技術開発や製造システムの先進的事例を示している。
 「第4部―国土を活かす」では、デンマークの「オールフス」、アメリカのエコシティ「デイヴィス」、ドイツの「クラインガルテン」等から学ぶところが多いと指摘している。そして我が国の貴重なノウハウが蓄積された「里山」を21世紀に適応させ復活させる提言など14例を紹介している。
 筆者は、製造業にとってはこれまでの「早く安く創る」という不可欠の競争に加え、早くから研究開発に着手する事でもたらされる「パテント競争」、新しいスタンダードの開発「フォーマット競争」の3軸で競争することが求められる、と予測している。
  本書では、単なる「ものづくり」ではなく人・組織・国土をも活用したものづくりのモデルにまで幅を広げて、多数の事例を取り上げ、それらに潜む「日本的価値」を示している点に特徴がある。
 なお、本書は、2001年1月から7月の間に東京新聞に連載された「ものづくり地政学」の122回の原稿に加筆・修正して纏められたものである。
 
0207  「シェークスピアを読み直す」

株式会社 研究社
2001年10月25日 発行
209ページ/定価2000円(税別)
編者 柴田 稔彦  
 1985年から1990年までの5年間に計10回発行され「シェークスピアリアーナ」という雑誌がある。「シェークスピア リアーナ」は、新しいシェークスピア研究の指針を打ち出す事を編集方針として、丸善より刊行された。シェークスピア研究者の多くが名前を連ねており、当時の研究者の意気込みを感じさせるものである。
 本書では、シェークスピアの代表作と目される作品について15名の執筆者による作品論的なものが集められている。 本書の編者は出版の目的を、いまシェークスピアをどのように読むかということが改めて問われていることへの答えの試みであり、答えは一定でなく、相互矛盾もあえて辞さない、としている。
 本書と「シェークスピアリアーナ」を比較して論ずる事は、その主旨や執筆者の数などの差があり適当でないかと思われるが、その時代の断面でシェークスピアを多面的に見ようといところには共通点を見る事が出来る。
 シェークスピアの戯曲を読み直す場合には、佐野隆弥氏が「マクベス」の中で述べているように、A:その劇が創作・上演される事になった理由や機会、B:その作品と同時代的な時事的言及、C:作品中で展開される歴史的事象が作品創作の時代に与える意味、D:歴史劇全体の生成・発展の流れの中でその戯曲が占める位置など、が重要になる。そして歴史観の変化によっても、また今日的なものの見方によっても作品の意味が異なってくるであろう。
 太田一昭氏による、13歳のジュリエットのエロティシズムはユニークであり、現在の若い女性達と対比させて考えると大変面白い。吉原ゆかり氏の「終わりよければ全てよし」では、ジェンダー(性)の面でも社会階級の序列でも不利な中で、弱者(ここでは女性)が体制の中で勝利する方法を物語りの展開に沿いながら分かりやすく解説している。村上淑郎氏は、「ハムレット」について1600年から23年にかけて出版された3種類の版について考察している。復讐をまっすぐに目指す主人公像から、装いを、狂態を、変貌の過程そのものを面白がる「劇」の人物への変貌を通してシェークスピアの楽しみ方を紹介している。
 本書は、我が国で言うと「関ヶ原」の時代に海外で書かれた有名な戯曲をこの変化に富む現代にどのように読むのかということを示唆しており、大変に興味深いものである。
 
0209  「インターネット・サバイバル」

株式会社 日本評論社
2001年5月10日 発行
216ページ/定価1800円(税別)
著者 福田 秀和 
 
  世の中のIT化の流れは目をみはるものがある。最近の動向を注視していると、ひところの「ブロードバンド」に当たっていた脚光が「ユビキタス」に向いているように見える。「ブロードバンド」では、広い周波数帯域を持った高速回線が準備される事を前提に、サービスされるコンテンツやビジネスモデルに興味が持たれた。「ユビキタス」では、何時でも何処でも情報を受発信し活用できる社会をイメージしている。このようなコンセプトの中で、既存のメディアや新しいメディアがどのように変化しながら生きる道を見つけていくかについては興味の尽きないところである。
  筆者は、7年半日本経済新聞の記者として政治部や経済部で修行をした。30歳を過ぎて関連のテレビ東京に出向し、およそ10間ディレクター・プロデューサー・ニュースの番組の司会などを務めた。そして2001年3月から日本経済新聞社に復帰し電子メディア局でインターネットに携わっている。
本書は9つの章で構成されているが、大きく3つに区分する事が出来よう。まず第1のブロックでは、新聞とテレビでのこだわりのちがい、活字の限界と映像の強み、テレビの不得意と新聞の得意、個人プレーの新聞・チームプレーのテレビ、番組を作っているのは誰か、報道の公平性とは、テレビに社説はあるか、などテレビと新聞について対比しながら述べている。第2の著作権については、今後多くなるコンテンツの「多重利用」や「マルチユース」に対する番組やコンテンツの権利者との関係について述べ、最近の法制化や著作権の管理ビジネスの動きについても言及している。第3のインターネットに関しては、インターネットの特性を明らかにした上で、活字メディアやデジタル放送との競合について、さらにメディアの経営上の基盤として重要な広告についても言及している。
本書では、これからの世代での「メディアの王様はだれ」という問題提起をしているが、明快に結論を断言する事は差し控えている。自らを新聞とテレビの報道の「両棲類」と言っている筆者が新聞・テレビ・インターネットについて夫々の特徴、相互の利害得失について、現場体験をもとに思いを述べているところが面白く、また本書の特徴となっていると思う。
 
0210  「今のテレビが使えなくなる日」

株式会社 日本実業出版社
2001年10月日1 発行
246ページ/定価1500円(税別)
著者 西  正 
 
   IT化の進展のの中でメディア間の葛藤や融合が取りざたされているが、テレビそのもの将来の姿は以外に知られていない。
   テレビ放送が始まったのは1953年のことであり、白黒がカラー化され我々の最も身近なメディアとなっている。ケーブルTVも「放送」の範疇であり1998年からは一部デジタル化され、最近ではインターネット接続のメディアとしても活用されている。1996年6月にCSデジタル多チャンネル放送が新しいメディアとして登場し、CS事業者の覇権争いの後に、スカイパーフェクTVに統合された。 2000年12月には従来のアナログの衛星放送に加えて、デジタル衛星放送が開始された。 最近では「110度のCS放送」が取りざたされている。一連の放送に関する変革の最後に登場するのが地上波放送のデジタル化である。2003年には関東・近畿・中京の3大広域圏の地上波がデジタル化され2006年には全国展開される。その後は従来のアナログ放送とデジタル放送が併存するが(サイマル放送)、2011年にアナログ放送は終了することになっている。
   「放送」に関して概観してみると以上の通りであるが、本書では、「放送」の現状と将来について分かりやすく書かれている。 本書の構成は、最初に「貴方のテレビが使えなくなる」とショッキングな問題提起がなされる。そのあと、BSデジタル・CSデジタル・東経110度CS・地上波デジタルの順に、夫々のメディアの発生・内容・可能性・問題点などが解説されている。本書のもうひとつの柱として第4章と終章では、「デジタル化の謎」を追っている。なぜデジタル化されるかとの問いに対する答えは「視聴者に対して、より良いテレビ生活を提供できるようにするため(終章)」であり、地上波デジタル化のテレビ局側のメリットとして、ビジネスチャンスの拡大、番組制作の多様化・効率化・省エネルギィー化、番組のマルチユースの実現、視聴者との一体化であるとしている。
  シンクタンクの研究員として放送業界を担当していた筆者が主人公となり、いわばRPG(ロール・プレイング・ゲーム)仕立てで放送に対する疑問に答えている。実名で登場する人もあって読みやすく、「放送」の将来について知ることができる。
 
0211  「ユビキタス・ネットワークと新社会システム」
株式会社 野村総合研究所
2001年7月22日発行
356ページ/定価1800円(税別)
著者 野村総合研究所 
   ITによる社会や生活の急激な変化のなかで、自分が今どのようなところにいるのか見失いがちである。本書では、昨今のITに関わるパラダイムの変化を明快に示している。かつての「インターネット=eコマース」、今までの「ブロードバンド=映像・音楽」と言う世界を越えて、今「ユビキタス・ネットワーク=現実生活支援」というパラダイムに急速に変化し始めた、と言いきっている。
  このようなパラダイムの変化の中で、野村総合研究所は2000年12月に「ユビキタス・ネットワーク」を、2002年元旦に「ユビキタス・ネットワークと市場構造」を出版している。本書はこれをうけ、ユビキタス・ネットワークを新しい社会システムに活用することを通じ、その利用をいかに早く普及促進するかを問うことを狙いとしている。
  本書は序章と8つの章で構成されており、8つの章は、3つの編に大括りされている。
本書の序章と第一編を読むことにより、ユビキタス・ネットワークの5つの技術(ブロードバンド、モバイル、常時接続、バリアフリー・インターフェース、IPv6)、3つの本質(形態知の交換・共有、コミュニティーパワー、センシング・トラッキング能力)、3つの事業モデル(コンシェルジュ型、知産管理型、大域計測型)はユビキタスのコンセプトを明快に示しており、ユビキタスとは何かについて理解することができる。
  第二編では「ユビキタス社会システム・アプリケーション」として、健康安心・自動車ネットワーク・教育学習・環境系ユビキタス社会の4つのシステムについてビジネスモデルを具体的に示している。第三編では、「ユビキタス社会システムの普及促進」として、ユビキタス社会の需要規模と普及方策を示している。
  今年になって、ユビキタスを標榜する動きが活発になってきた。このような時期に出版された本書はその価値を一段と発揮することになろう。野村総合研究所では「スコープ・シリーズ3部作」に続き「NRIニューパラダイム1987―通念の変革と新創出力―」を15年前に発表。常にその時代を見極め次の時代のパラダイムを予測している。本書もこのような流れの中で捉えることが出来、継続的に為されている努力と成果に敬意を表したい。
 
0212  「ライカM3に追いつけ追いこせ」

株式会社 文芸社
2001年10月15日発行
155ページ/定価1200円(税別)
著者 カジロウ
   カメラ関連の古い資料を保存している箱の中から「アサヒフレックスU型(AとBタイプ共用)」の使用説明書が出てきた。説明書の最初に「ピント合わせは必ずフィルム巻き上げ後、つまりシャッターセット後にして下さい(クイックリターン機構の為、ミラーの位置が僅かながら変わりますから)」と書いてある。
 従来のファインダー方式のカメラでは、フィルム面の像とファインダーで見える像の視差(パララックス)をいかに克服するかが大きな課題であった。昭和27年(1952)に発売された「アサヒフレックスT型」は一眼レフの先駈けとなる画期的なものであった。しかし、T型ではシャッターを切った時にファインダーから像が消える(ブラックアウト)欠点を持っていた。U型ではクイックリターン機構を備え、この欠点を克服したが、まだ完成の域に達していないことを示している。その後、ペンタプリズムを採用した「アサヒペンタックスAP」は、カメラ界における新たな路線を世界に明確に示したと言えよう。
   筆者は、昭和29年に発売された「ニコンS2」がドイツの「ライカM3」に迫まり、一眼レフの「アサヒフレックス」と、TTL(レンズを通った光の量を測る方式)を実現した「トプコンREスーパー」が戦後カメラの発展史上最も重要な役割を果たした、としている。
   カメラを使って写真を撮るのは「被写体をしっかりと見て、最良のタイミングでシャッターを切る」と言うことである。土門拳の同じ主旨の言葉を記憶している。カメラの魅力は写真を撮る機能性だけにとどまらない。手の中でのしっくりした感触と重量感、ファインダー内での像の結び方、シャッターの切れ味と音、レンズの回転やレバーの操作性、フィルムの装填と巻き戻し、さらには工業製品としての美しさなど、カメラを扱う楽しさであり、カメラを収集したくなる要因でもある。
   筆者は160台のカメラを所有しているとのことである。本書では、カメラ好きの収集家が選りすぐりの20台について語るだけにとどまらない。「カメラづくりは国づくり」の視点で、昭和20年代から40年頃にかけてそれぞれのカメラが歴史上で果たした役割を示している。さらに、カメラの歴史を筆者の「自分史とこれからの生きざま」に重ねているところも本書のおおきな特徴と言えよう。 
2003

0301  「科学技術の新世紀」

発行所  丸善株式会社
2002年6月5日発行
199ページ/定価1500円(税別)
編者 社団法人日本工学会 
  我が国の第1期科学技術基本計画は1996年に定められている(研究開発投資の目標17兆円)。平成13年度から5ヶ年の第2期計画が平成13年3月30日に閣議決定されている(同投資の目標24兆円)。さらに総合科学技術会議において分野別推進戦略が纏められ、8つの重点分野の中から4分野が特に重点を置く分野として選択されている。8つの分野は、ライフサイエンス(*)、情報通信(*)、環境(*)、ナノテクノロジー・材料(*)、エネルギー、製造技術、社会基盤、フロンティアである。(*印が選択された4分野)
  本書は、総合科学技術会議第5部と日本工学会が共同して平成13年9月に開催したシンポジューム「科学技術の新世紀」の講演を再構成してとり纏めたものである。
 本書の「初めに」を担当している日本学術会議第5部長の富浦梓氏は、第2期計画の特徴として「課題の選択と集中」、「総合科学技術会議による主導」、「自然科学と人文・社会科学の総合化」、「科学技術システムの改革」の4点を挙げている。
   第1章では、我が国の未来と科学技術基本政策(尾身幸次)、21世紀の科学技術(吉川弘之)、第2章では、科学技術システムの改革(大熊健司)、日本産業の交際競争力強化に向けて(濱田隆道)、大学改革(清水 潔)第3章では、技術者の育成と確保(大橋秀雄)、技術者能力開発の新しい仕組みづくり(追加掲載:高橋 宏)、第4章では、選択された4つの個別分野、環境研究(吉川弘之)、情報通信分野(桑原 洋)、ライフサイエンス(井村裕夫)、ナノテクノロジー・材料(白川秀樹)について記されている。
   企業においてR&Dの戦略立案や管理に携わっている者は、こお技術進歩の激しい時代に、的確にR&Dの方向性を示し、企業として常に技術レベルを確保するために効果的に研究開発費を投入し、企業戦略に貢献することをマネージするのは並大抵ではない。
   本書からは、国が目的とする科学技術やR&Dの重点分野と具体的戦略を読み取ることが出来る。24兆円を投入するR&D分野の広がりと額は想像を絶するが、一企業や特定の専門分野を超えて日本国のこれからの方向を理解しておくことは有意義である。
 
0302  エコノフィジックス   市場に潜む物理法則
発行所  日本経済新聞社
2001年12月10日発行
201ページ/定価2200円(税別)
著者 高安  秀樹・高安美佐子 
    「エコノフィジックス(econophisics)」は「経済物理学」のことで、1997年にブダペストで開かれた研究会のタイトルとして初めて登場した造語である。「経済学(economics)」と物理学(physics)とを橋渡しするような分野を意味している。
エコノフィジックスでは、複雑な物理現象を解析する統計物理学の発想と手法を活用し、現実の経済現象を実証的に物質科学と同じような視点で分析する。エコノフィジックスを活用して株価や為替の変動を予測して利益を得る事が出来る所までは熟してはいない。しかしながら本書では、統計物理学を応用したモデルを用いて経済現象を解明できる例をたくさん示している。
  第1章では「需要と供給とが安定に均衡するという考え方とバネの力の均衡」、第2章では「株や外国為替などのオープンマーケットにおける取り引きのしくみと実際の価格変動の特性」、第3章では「マーケット価格の変動の特性を臨界ゆらぎとしてとらえる」、第4章では「資産や所得などの企業の財務データにおいて発見された統計法則」、第5章では「巨額のお金の自己増殖機能とその周辺のゆらぎの問題」をとりあげている。
  本書では、経済学と物理学を捉える共通のキーワードとして、「フラクタル」と言う現象に着目している。本書の基本用語の説明には「拡大しても縮小しても同じように見えるという基本的な対称性を持った複雑な構造や分布の総称」と解説されている。第2章では「株価の変動」を、第4章では「ガラスなどを破壊した時の破片の分布」と「企業の所得の分布」を対比させて説明している。
  本書を読んでいくうちに経済の見方が変わってくる。これまで経済現象として理解していたことが、物理法則にのっとった事象として数式を用いて説明することが出来ることが分かる。
  エコノフィジックスは研究の段階にあると思われるが、研究の発展途上にある「複雑系」も視野に入れている。統計物理学の概念や手法が異分野に活用され、多くの事象が科学的に論理的に解明され、実務に広く応用されることを期待したい。
 
0303  比較日本の会社  住宅
発行所  (株)実務教育出版
2002年11月10日発行
250ページ/定価1300円(税別)
著者 三島 俊介
    「住宅」は大半の人が所有または賃貸して居住しており、良く分かっているつもりになっている。しかし、住宅には以外に難しい点がたくさん存在している。いざ自宅を建設しようと計画した時にことに気がつく。何を考え、どんな所に注意して設計者や工務店にお願いし、計画案の何処をチェックすれば十分であるか、自信がもてないのが普通であろう。
住宅に対して着目すべき点を上げてみよう。大規模地震に耐えうる強度を保持しているか、資産となりうる質と耐久性は十分か、家族構成の変化に対応するフレキシビリティは考慮されているか、ランニングコストの安い省エネ仕様になっているか、シックハウスの問題を発生させないか、バリアフリーになっているか、情報化対応は最新のものか、環境共生の配慮がなされているかなど。以上は新築する時に考えることであるが、現在居住している住宅を良くするために改修(リフォーム)したいと希望する際にも同様である。
  住宅に対する国の施策としても、良質の住宅を供給するための住宅性能表示・高齢者やハンディキャップを持つ人のための住居・中古住宅保証などの法律や制度が創設されている。
本書は、住宅を供給している企業の分析を目的としたものであるが、前半には、Q&Aやデータにもとづいて、住宅及び住宅産業の概要について述べている。住宅に関する基礎知識・住宅産業の歴史・住宅市場の現況・住宅における最近の話題など豊富な内容になっている点も興味深い。
  第3章から5章では、「住宅会社」の中で戸建住宅の供給会社について詳述している。まず「住宅会社」の仕事の概要を分かりやすく解説し、大手8社のプロフィールと業績分析、大手8社に続く木造住宅メーカー(19社)と建材・設備メーカー(8社)のプロフィールを紹介している。最終章(第6章)では、業界勢力図・住宅技術・住宅行政等、住宅業界の将来を展望している。
  本書は、住宅供給会社の企業研究を主眼として書かれているが、住宅の新築やリフォームを計画していいるユーザー(居住者)から見た時、業者選択の参考としても十分に役立つ内容にもなっている。
 
0304  21世紀の日本の情報戦略
発行所  (株)岩波書店
2002年3月25日発行
247ページ/定価1600円(税別)
著者 坂村 健
  2000年11月にIT基本法が策定され、2001年1月に施行された。2005年までにすべての国民が常時接続可能な環境を整備することを目標に「e−japan」が推進されてきた。昨年中に高速ブロードバンドに3,500万世帯、超高速ブロードバンドに1,600万世帯が常時接続可能な環境が整備された。しかし、実際に接続して利用している比率は、夫々15%、1%であり、高速大容量通信を必要とするコンテンツやサービスの不足がインフラ利用を遅らせている。「e−japan」ではこれまで整備してきたIT環境の利用拡大に向けた戦略を立案中である。
  このように国を挙げてIT化に取り組んでいる時に、本書のタイトルは大変魅力的である。本書は3つの章で構成されている。第1章では「米国のITバブル崩壊から学ぶこと」としてドットコム会社の盛衰を概観し破綻の原因について分析している。第2章では米国と日本を比較している。ここではIT関連のみでなく、日本人の行動特性の本質に迫ろうとしている。第3章では「日本の戦略」としてOS・セキュリティ・文字コード・教育・規格化等について筆者の思いを述べている。
筆者は「ユビキタス」が日本の情報戦略に重要なポイントとなり、我が国が世界のリード役になれるのではないかと主張している。2002年の後半から、「ブロードバンド」が「ユビキタス」にITの意識が変化している。「ユビキタス」という言葉は様々な概念で捕らえられている。「ユビキタス社会」・「ユビキタス・ネットワーク」・「ユビキタス・コンピューティング」。基本的なコンセプトは同じであるが、着目している所は微妙に異なっている。
  筆者の主張はは「ユビキタスコンピューティング」。「家電製品や生活用品に小さなコンピュータチップが内蔵され、ネットで互いに情報をやり取りし、我々の生活を便利にしてくれる社会」をイメージしている。
  筆者はTRONを提唱している。ITRONは身の回りにある様々な機器に組み込むコンピュータで、世界NO1のシェアを持っている。コスト・サイズ・消費電力・すばやく状態の変化に対応できるリアルタイム性を持つ。
  TRONによる筆者がイメージするユビキタスが実現し、日本の情報戦略の主要な部分を担うことを期待したい。
 
0305  デジタル著作権
発行所  ソフトバンク パブリッシング(株)
2002年12月22日発行
247ページ/定価2800円(税別)
著者 デジタル著作権を考える会
   「コピーライト」・「コピーレフト」という言葉を聞いたことがおありでしょうか。「コピーライト」というのは、創作物に対する権利を主張する立場の主張、「コピーレフト」は、知的財産は広く公開し皆で活用するべきである、との主張である。「デジタル著作権」を考える時に、この2つの主張はこれからの時代を象徴していると言えよう。デジタル化されてインターネットの中をコンテンツが流通するときに、「コピーライト」を守るための困難さが存在するのが今日的課題である。
  「放送」で受信したコンテンツを(サーバに)蓄積し、家族全員が好きな時間に楽しむことは許されるのか。このコンテンツをデジタル化して、「通信」のネットワークを介して第3者に配信してもいいか。配信するコンテンツに値段をつけることは許されないのか。では、同じ趣味の仲間がこのコンテンツを共有して楽しむことは権利の侵害になるのか。これは従来の「放送」と「通信」に関わる1例であるが、ネットワークのスピードが速くなり、機器の性能が向上して、運用のためソフトが高度化すれば、技術的には十分可能であるだけに「コピーライト」の立場の人にとっては大きな問題となる。
  本書の執筆者は、弁護士・法律の専門家・映画監督・CGプロデューサー・小説家・漫画家・メディア研究者など多彩で、12名が多様な視点から夫々の意見を述べている。
  権利関係の注目すべき点はいくつか存在している。コンテンツを創作した人とコンテンツが世に出るのを仲介したメディアなど(経済的な面でリスクをとった人)のどちらの権利を保護するのか、著作者人格権(公表権・氏名表示権・同一性保持権)と著作財産権(複製権・上演権・公衆送信権等)の関係、利用(著作物を複製したり送信したりする)と使用(著作物を見たり聞いたりする)、ホームページから無断で特定のページにリンクを張るのは著作権の侵害になるか、などインターネット特有のことまで広範に渡っている。
  本書では、このような複雑な予測しにくい事柄について、複眼的な目で問題を提起し解説しているところに特徴があり、「権利」に対するこれからの考え方の本質に迫ることが出来る。
 
0306  ウエルチ的徹底経営
発行所  (株)宝島社
2003年2月24日発行
188ページ/定価750円(税別)
著者 川井健男
   1995年の秋に科学技術と経済の会の「米国テクノ・エコノミックス調査団」の一員としてGEのコーポレートR&Dセンター(スケネクタディ、ニューヨーク)を訪れた。GEは1980年から2000年の間に売上高を約5倍(純利益で8倍強)に伸ばし、1995頃年は急激な成長に転換した時期にあたる。
  当時のGE全社のR&D要員は1万7千人強であり、GEの総合研究所としての位置づけられているこの研究所には千5百人が在席。従来のR&Dは、技術レベルは高いが、ニーズへの的確な対応・開発期間の長さについて事業部よりの不満があった。グループ内の英知を集めたチーム編成・ビジネスに直結する大型テーマの推進・技術開発のサイクルタイムを短縮(従来の10分の1)などのR&Dのビジョンが実践されていた。
  1995年はウエルチが会長兼CEOになって14年が経過しており、ウエルチ的経営が浸透していた時期である。R&Dに対してもその影響が色濃く出ている事を感じた。この訪問では、R&Dについての興味が中心ではあったが、GEの会社としての経営ポリシーについても多くの事を学んだ。
  本書では、当時聞いた内容がたくさん含まれている。第1章には「ウエルチ会長誕生まで」、第2章には「ウエルチ的経営の核心」、第3章には「ウエルチの失敗」、第4章には「ウエルチ的は日本で有効か」、が書かれている。
著者は本書を、昨年出した「ドラッカー的未来社会を読む」の続編と位置づけている。ドラッカーの経営理論から多くのヒントを得て実践的な経営哲学を作りだしたウエルチについて書いてみたかったのであろう。
  ウエルチ的経営については、ウエルチの自伝「ジャック・ウエルチ わが経営」や日経新聞の「私の履歴書」でも良く知られ、直接本人の講演を聞いた方もあると思われるので、何を今更という感があるかも知れない。しかし、本書はあたかもプロジェクターによるプレゼンテーションを見るように、図をふんだんに取り入れたわかりやすい構成になっている。ウエルチ的な経営は時代が変わった今でも普遍的な内容が多いと思う。本書を側においておけば、忙しい中でも必要な時に必要なところを瞬時に見つけて参考にすることが出来るであろう。
 
0307  都市の未来
発行所  日本経済新聞
2003年3月25日発行
389ページ/定価2000円(税別)
編著者 都市新基盤整備研究会   森地  茂・篠原  修 
  ひとくちに「都市」といっても思い描くイメージはひとによって相当の差がある。自分が毎日生活する「町並み美しくしたい」から、東京圏にハブ空港を作り「アジアにおける競争力の向上を図りたい」等多様である。
  本書では、都市再生が日本の最重用課題となった原因として、都市と産業の関係の変化、公共投資の地域間・分野間の配分問題、安心や安心の面も含めた環境問題、土地利用の改変を要する空間の存在、を挙げている。
  序章では江戸末期から、戦前・戦災復興、高度成長、バブル、バブルの崩壊まで日本の都市がたどった途を概観している。
  1章の知の集積場としての都市では、産業構造の変化、情報化の進展やネットワーク化による知識集積都市としての転換と都市再生について。3章の交流の場としての都市では、交際交流圏、交通・物流、都市観光、都市と農村について。2章では日本の都市の魅力と風格について。4章では、まちづくりの仕組みと制度について。5章では都市再生の胎動として、海外のバイオ集積都市の事例を5件紹介している。最後に6章で、都市の未来への課題と展望が述べられている。
  本書は一昨年設立された都市新基盤整備研究会のメンバー15人により分担して書かれており、様々な視点より都市に対する問題提起や提言がなされている。都市を論じる時に、本書の今日的価値は、「知の集積場」として都市を論じていることであろう。情報化やネットワーク化が進展した時の都市については、現在変化の途上にあり、その姿を明確に描くところまでは至っていない。企業にとっても、ひとつの都市の中で完結することはなく、広域的に、国際的に経営資源を有効に活用してゆく事になる。研究機関もリサーチパークに立地し、知の集積効果を求めるのと同時に世界に開かれたネットワーク化が必須である。これからの都市は、「多様なネットワークの複合により都市の知識集積ポテンシャルを高めてゆくような広域的都市構造を形成していく」のであろう。
  なお付録として、研究会準備中に逝去した渡邊貴介の講演録「21世紀の庭園都市国家を考える上での1、2の視点」の抜粋が巻末に載せてある。
 
0308  こどもに教えるITの仕組み
発行所  DAI−X出版
2002年9月9日発行
201ページ/定価1300円(税別)
編者 こどもの疑問解決委員会 
  2000年11月のIT基本法をうけて翌年の1月に「e-japan戦略」が策定されて以来、通信環境の整備が進められてきた。インターネットへの接続環境は、超高速回線(光ファイバー)は1600万世帯、高速回線(DSL)は3500万世帯が申し込めば接続可能な環境となり、目標は達したとされている。しかし、本年4月末の実際に接続して利用している実績は、夫々35万世帯、750万世帯である。最近策定された「e-japan戦略U(案)」では、IT環境の利用や活用を促すことを狙いとした新戦略を策定した。「元気・安心・感動・便利」社会の実現を目指して、IT利活用を先導する7つの分野が定められた。利活用の促進のためには、高齢者や、ITスキルの高くない人たちの利用促進も重要な課題である。
  経済産業省の外郭団体「ニューメディア開発協会」では、高齢期の生活に密着した情報技術(パソコンやネットワーク)の楽しい活用方法を教える事の出来る人「シニア情報生活アドバイザー」を育成するプログラムを推進中である。私が属しているNPO法人「自立化支援ネットワーク(IDN)」は育成講座の実施団体に指定され、16回の講座を開催した。講座を実施する過程で、初心者にIT全般についてやさしく分かりやすく説明する教材があれば便利だと常々思っていた。
  本書は大人と自負する人たちが物事の本質を再確認し、知識を整理して子供たちの疑問にきちんと答えられるように、と考えて制作されている。子供たちだけではなく、高齢者やITに関する知識の低い人にとっても貴重な教本となる。
本書では、「ITって何?」から始まって、パソコン・FAX・携帯電話・カーナビ・ゲーム・GPSなどについて解説がなされ、インターネットやメールについては多くのページが割かれている。セキュリティについても、ウイルスやインターネットでの買い物の安全性など的確に指摘している。各項目毎のストーリーチャートにより内容の難しさの程度が示されており、単純な例えやイラストもふんだんに使われているので分かりやすい構成になっている。
  本書の最後は「ITで世の中はもっと便利になるの?」であるが、「e-japan」計画についても簡単に記され、首相官邸IT戦略本部のホームページのURLも紹介されている。 
0309  サスティナブルハウジング
発行所  東洋経済新報社
2003年6月26日発行
206ページ/定価1300円(税別)
監修八木晴之/岡本公夫
  かつて「ハウス55プロジェクト」に携わった事がある。延べ100M2の住宅を500万円台で1980年(昭和55年)から売り出すための技術開発を行なうプロジェクトだった。当時の通産省生活産業局住宅産業課の住宅に係わる大型の最初のプロジェクトであり、以来数年単位で時代の求める新たなプロジェクトが続けられている。2000年から2004年にかけて進められている「資源循環型住宅技術開発プロジェクト」は「ハウス55プロジェクト」から数えて6代目にあたる。
本プロジェクトは、循環型経済社会の積極的な構築を図る一環として、住宅の建設から維持・管理・廃棄処分までのライフサイクル全般を視野に入れ、長寿命で、リサイクルしやすく、エネルギーを効率的に利用した技術開発を行ない、21世紀にふさわしい資源循環型の住宅像を確立しようとしている。
  本書は、4グループ15企業により構成された「生活価値創造住宅開発技術研究組合」の活動のこれまでの調査研究の成果を纏めたものである。序章と第1章では、資源・エネルギーや地球環境問題の現状と「サスティナブル社会」について概説し、さらに今後の住宅との関わりについて示している。2章と3章では、本書の本論の部分であり、「資源循環型住宅」のコンセプトと技術開発の具体的内容について記している。
  本プロジェクトでは「資源循環型住宅」を、今までのスクラップ&ビルド型の発想から脱して「持続可能な住宅」を考え方の根本に据え、住宅のライフサイクルを通じて「長寿命で、リサイクルしやすく、エネルギーを効率的に利用できる」設計思想を持った住宅システム、としている。「資源循環型住宅」を支えるコア技術として、3R(リデュース・リムーブ・リサイクル)、リユース、ロスフリーエネルギー技術、評価・管理技術等について詳述している。第4章では、資源循環先進国であるEU数カ国での調査結果の中から先進事例を紹介している。
   本書を一読することにより、「資源循環型住宅」のコンセプトや関連する技術開発の状況について知るのみでなく、今日的問題となっている「サスティナブル」に係わる様々な動向ついても多くの知識を得ることが出来る。
 
0310  ITで人はどうなる
発行所  東京電機大学出版局
2003年5月30日発行
195ページ/定価1800円(税別)
著者 斎藤正男/川澄正史
   住生活におけるITによるサービスへの期待について、というテーマでアンケートを行なったことがある。360名ほどの回答者が166の項目の中より重要視するサービスを選択してくれた。このアンケートでは自由回答もお願いした。住宅がIT化され様々なサービスが提供されることによる効用についての期待の他、個人のプライバシー、便利すぎて人が怠惰になる、人間疎外になる、実コミュニケーションが不足する、社会生活への適応性が低下する、運動不足になるなど、心配事についても多くの記述があった。
  新しい技術やサービスが適用される時には、その「光と影」の両面が存在する。企業に属しているものは、その技術やサービスに対してアセスメントが必要な事が分かっていても、技術そのものの面白さやビジネスの可能性を優先することはよくある。
  本書では、ITの進展に対して、その「影」の部分にスポットをあてている。ITが普及する時に社会に何が起きるかを予測し、人間と人間社会の変化を想像して対策を立てる必要性を強調。問題点として、ITが普及する時に落伍者を出さない事、ITを使う時の人間と人間関係の変化、を挙げている。
本書の中では、高齢者や障害者とITの関わりについてはたくさんの紙面を割いている。仮想と現実、育児や子どもの成長とIT、ITと人間関係の変化など、記述の内容は広範に渡っている。家庭のIT化については「光」の部分として技術やサービスのメニューもたくさん記されている。
  本書の2人の著者は、ITの専門家ではなく医用生体工学、人間システム工学、生活支援工学などを専門としている。「人間と情報環境」というテーマを掲げ、高齢者とITの関係や、機械環境と脳活動の関わりについて研究を推進している。筆者達は、決してITの技術的な発展を否定しているのではなく、長い目で将来を見た解決策を追求すべきと主張している。最後に、「メディア時代の育児」のあり方や「家族の絆」など、7つの当面の問題を提起し、解決案を提言している。
  ITの推進者達は、このような異分野からの貴重な意見にも耳を傾ける事が大切であることを強く感じた。
 
0311  のれん力学
発行所  朝日新聞社
2003年9月18日発行
278ページ/定価1900円(税別)
著者 飯野 富士雄
  1995年に阪神・淡路大震災が発生し建物の損傷と人的災害を経験した。今年の9月26日の未明に発生した十勝沖地震もマグニテュード8の大地震だった。著者は、このような大地震に対して高層・超高層の建築物が安全であるかを危惧している。特に高層・超高層の建築物が軟弱な土砂堆積層(東京は厚さ2000mにも達する)に作られる場合の安全性について。M8級の巨大地震による地盤主振動が長い時に、超高層の建築物はいったん1次共振に入ったものが安全率の大小のにかかわらず塑性共振に移行した時の安全性について、問題提起している。
  40年近く機械メーカーに勤めた著者は、社歴にない開発製品(貯炭場や貯鉱場向けの荷役機械、自立走行式タワークレーンなど)の構造設計に従事してきた。多くの構造設計の経験を重ねるうちに、薄肉構造体の解析には伝統材力の手法とは違った切り口が有効と気がついたのが「のれん力学」の始まりだった。
  「のれん力学」とは、面に沿う強度は十分なのに、面直角方向には全く無抵抗な薄い壁面をさし、有限要素法の二次元要素から成る平面に相当するものである。対象とする構造は、薄壁やトラス面で構成された立体構造にかぎられている。
  「このような立体構造は、箱状に構成すれば驚くほどの強さを発揮する反面、構成を誤れば『のれんに腕押し』のいたずらに悩まされる事になる」とし、「のれん力学」の考え方と部材の構成に関する多くの事例を示している。
 「のれん力学」を考える上で陥りやすい「いたずら」を「のれんの七へんげ」として示し、具体的な例としては、梁のメカニズム、偏心の恐ろしさ、薄肉中空構造体の捻り、対象梁への換算法、梁の計算をフランジ1枚で行なう法、箱断面のリングフレームなどについて、構造体の構成、計算式、計算結果の図解で説明している。
  著者が危惧している、巨大地震による長周期と高層・超高層建物の安全性については、未知と未経験のために大いに心配するところである。現行の耐震設計基準との関わりや、著者が提案している「のれん力学」の種々の手法については、専門家との間で議論がなされることを期待したい。
 
0312  塔に魅せられて  近畿・岡山編
発行者  山際得悦
2003年10月1日発行
432ページ/定価3500円(税込み)
著者  山際得悦
  1976年に出版された、梅原猛著の「塔」という本がある。梅原猛は、「塔」という非実用的でありながら、しかも人間の政治的・文化的意志をはっきり示す建造物の創始とその発展の経過をたどることによって古代日本の政治と文化を捉えようとした。「塔」にかかわる研究と思考の中から、「隠された十字架」(法隆寺論)や「水底の歌」(柿本人麻呂論)等の名著が誕生している。
  本書の著者の「塔」との邂逅は、大学生活もあと数十日と言う時期に旅に出て、慈光院に一夜の宿を求め、翌早朝、院主の薦めに従い、法隆寺へと続く畠中の道を辿った時だそうである。しかし、全国の塔をすべて見て回ろうと決意にいたるまでには十数年の時間を要している。そして1979年の秋に、著者の生まれ故郷である東京の下町、浅草の観音様から「塔めぐり記」が開始した。
  著者は発刊の動機として、塔のある風景に魅せられている、いろいろな願いのもとに建てられて保存されてきた塔を子孫に伝える、自然が保たれている大気の香る環境を後世に遺す、の3点をあげている
本書「近畿・岡山編」は、「関東編(1990年)」、「東日本編(1996年)」、「中部日本編(1999年)に続く、シリーズの第4作にあたる。
  本書で最初に紹介されている塔は「那智の滝を借景とする鮮やかな塔  青岸渡寺五重塔(那智勝浦町)」である。このような形で塔が紹介され、更に、その塔を訪れた時の状況・塔を見た感想・塔に対する説明・写真(撮影日を記入)・塔の所在地(案内図つき)が記されている。第1巻から、夫々の塔についてほぼ同じように構成されているが、書き方に若干の変化が見られる。著者も、自分の本を三冊並べてみて、二冊までの時とは全く別の感慨で、それを目にしていると書いている。
  この後、第5作「西日本編」と第6作「奈良・京都」が予定されている。特に「奈良・京都」についてはかなりの年数を要するので、その間の著者なりの何かを見つけたいと考えている、との事であるが、健康で目的を達成されることを期待したい。
  本書は山際得悦氏の自費出版なので本書を希望される場合は直接下記へ申し込んで下さい。
〒277−0033柏市増尾5−17−17
 
2004

0401  個人と会社 税金のすべてがわかる本
発行所  成美堂出版
2003年8月20日発行
254ページ/定価1200円(税別)
編著者  雨宮雅夫
  先に行われた総選挙では、各党のマニュフェストの中に書かれた年金への対応が話題になった。総選挙後に厚生労働省から年金改革案が示された。国民にとっての主な関心事項は、厚生年金の保険料率の上昇と年金給付水準の低下である。サラリーマンは毎月の給料の中より厚生年金保険を支払っている事はわかっていても、その額や保険料率などについては以外に無頓着で知らない人が多い。税金についてもまたしかりである。
  本書は、私たちのライフサイクルに合わせて日常的に遭遇しそうな税金について事例をあげながら書かれている。税理士どうしの研究会の主要メンバー6名で分担して執筆されており、平成9年の初版以来毎年改訂が重ねられている。
税金に関しては、そのすべてを知っておく必要はないが、ある日突然知識を必要とすることが発生する。親との同居住宅を作るときの(資金の分担と将来の相続まで考えたときの)所有権の設定、親がなくなった時の相続、会社勤めの傍ら講演をたのまれて臨時収入を得た時、など。
  科学技術と経済の会(技術経営会議?)のTM研究会のメンバーで情報交換会を催した事がある。退職して会社を離れ個人で仕事を続ける時に、どのような形態で行なうのが簡便で有利か。自分の活動する状況を予測して会社を作るとしたら、株式会社・有限会社・合名会社・合資会社のどの形態がいいのか。  TM研究会のケースでは、本書の第5章「事業と税金」と第9章「会社と税金」を読む事により概要を、株式会社と有限会社の比較については詳細に知る事が出来る。
  本書ではそのほか、身の回り・日常生活・家族・サラリーマン生活・財産形成・リスク・老後と死後、など税金について9章にわたって記されている。
本書ではひとつの項目を見開きに、図や表をふんだんに使用しイラストも交えて書かれており、税金を説明する本としては大変親しみやすい。
  本書は、税金について困った時にページを開いて概要を知るのに最適の書である。また、本書を一読することにより、税金についての常識のレベルを高めることが出来る。
 
0402  韓国はなぜ改革できたのか
発行所  日本経済新聞社
2003年4月21日発行
236ページ/定価1500円(税別)
著者  玉置直司
  11月24日から27日まで駆け足で、住宅の情報化を推進している仲間達と韓国のIT事情調査に行った。韓国では、e-KOREAの段階からから一層の飛躍を目指して2007年にu-KOREA(uはユビキタスの意味)の実現に取り組んでいる。
  経済危機を克服し、インターネット大国となった韓国では、区役所へ行かないで自宅のパソコンや地下鉄のコンコースにある端末機で住民票を取得することができる。このためには、個人番号制や個人認証が前提であり、すべての人が指紋を登録しなければならない。これは、「電子政府・電子自治体」が実現していることの一例である。現在我が国でも推進中のe-Japanと比較して韓国がIT化の推進においても先行していることを実感した。
  調査の最終日にサムスン電子の水原市にある工場のショウルームを訪問した。同社の歴史を知り、52万坪(171万平方メートル)の敷地で生産された最先端の製品を見て韓国のトップ企業グループの実力を知った。帰国直後の日経新聞」に、「サムスン共和国の意外な理想」という記事が掲載された。通貨経済危機の前後から今日に至る韓国財閥の盛衰が概括されている。今は、サムスン電子が突出している事や、昨年の大統領選での不正資金疑惑のことなど。この記事を書いたのは、玉置直司ソウル支局長であり、今回取上げた本の著者でもある。
  玉置氏は、83年に日本経済新聞社に入社し、延世大学韓国語学堂に留学した経験も持つ。「本書は、21世紀の入り口で韓国が大胆に進めた経済・社会構造改革についてのレポートである」と書いている。
  東南アジアを襲った通貨危機は韓国を朝鮮戦争以来の危機に陥れた。韓国は、97年11月に経済が事実上破綻、大統領選挙を1ヶ月後に控え「IMF(国際通貨基金)改革」と呼ばれる空前の建て直し作業に着手した。本書には、IMF危機の前後を「BI」、「AI」と表現し、韓国における危機の実状と復興の歩みがつぶさに書かれている。
  玉置氏は「経済・社会環境が異なるためそのまま日本に当てはめる事は出来ない。それでも危機に直面して大胆な改革を進め危機克服の道を歩んでいる韓国から学ぶ点は多いはずだ」と書いているが、全く同感である。
 
0403  新聞記事がわかる技術
発行所  株式会社講談社
2003年8月20日発行
182ページ/定価680円(税別)
著者  北村 肇 
 新聞の真の役割は何だろう。ひところテレビや雑誌との競合や棲み分けについて議論されたことがあった。そして最近では、インターネットとの関わりについては興味深いものがある。テレビとインターネットの関係についても同様であり、代表的なメディアの三つ巴の状況を明快に解きほぐすのは困難な時代となった。
  新聞社で収集した情報は、データベース化され、インターネットで提供されており、すでにビジネスとして成立しつつある。時々刻々のニュースが映像とともに流されており、新聞より早い情報の入手が可能である。ひとつのコンテンツを多メディアで活用する時代はすでに始まっており、メディア間の境界ははっきりしなくなった。
  1974年に毎日新聞社に入社し、社会部副部長・新聞労連委員長・「サンデー毎日」編集長を経験している著者は、インターネットが爆発的に普及をはじめ、「いよいよ新聞が危ない」と囁かれた時に「21世紀は新聞の時代」と確信した、と言っている。多メディア時代での新聞を語るために、情報とは何か、取材から新聞紙面が作られるまでの「新聞の実態」をわかりやすく説明し、読者の立場に立ったときの「新聞記事の読み解き方」について経験を基に述べている。
  新聞に「社説」はあるが「社論」はない、社説は論説室の見解であり、社員全員の意見が反映されているわけではなく、経営陣の意向が持ち込まれているわけでもない、言論の自由は「社」だけに与えられた権利ではなく、すべてのジャーナリストが等しく共有するものだ、と筆者は書いている。新聞の本質を的確に言い表していると思う。
  情報の出所となるポイントに約2万人の記者が常駐し、365日取材し記事を書いている、しかも長年培ったノウハウと人脈があり、他のメディアに比べて新聞の情報がいちばん豊富で信頼性が高い、というところを新聞の特徴としている。
  多メディアの情報に平行してアプローチし、自分なりに比較分析する。しかし、悠長に構えていられないので、情報に対する「直感力」を磨くことにより、直感で必要な情報を選択し、読み解くことの出来る技術を身につけるべきである。本書からはこんな示唆が得られる
 
0404  産業空洞化の克服
発行所  中央公論新社
2003年2月25日発行
176ページ/定価680円(税別)
著者 小林英夫 
  日本経済新聞2004年2月16日の社説に「もの造りの国内回帰を活性化のバネに」という記事が掲載された。デジタル家電などのデジタル製品、高機能高付加価値の製品・部品、及び工作機械について、開発製造拠点として国内の利点を再認識する企業が増えている。中国などへの生産移転に伴って懸念された空洞化に歯止めがかかる可能性がある。このような兆候の現れは日本経済にとって喜ばしいことである。景気の回復も大きな要因であろうが、本書で述べられている空洞化への対策が実を結んでいることが窺がえる。
  筆者は、空洞化の定義を「国際競争力を失って輸入激増、輸出激減の打撃を受けた産業や企業が消滅するか、もしくは海外移転を迫られ国内工場を放棄せざるを得なくなるだけでなく、それに代わる新産業の創出と産業高度化を生み出さないままに産業構造に空白が生じる現象」としている。そして、わが国の産業空洞化の段階を、70年代から85年のプラザ合意まで(円高の進行、繊維や雑貨といった労働集約的産業が低賃金を求めてアジアに)、プラザ合意以降90年代前半まで(一層の円高の進行、電気電子・機械など親会社の要請を受けて系列会社が海外移転)、90年代後半から今日まで(アジア各国の技術力の向上、電気電子・自動車などの主力部門が海外移転、持ち帰り輸入の急増)の3つの段階に区分して捉えている。
  日経新聞による明るい兆しも見られるが、現在も空洞化が存在していることも事実である。本書では、空洞化が進む要因を分析し、空洞化に歯止めをかけるための施策を提言している。1990年代後半以降の中国の急成長とそれが引き起こした韓国・台湾といった周辺諸国などの変化を詳細に分析しているところに本書の特徴がある。
  筆者は、空洞化を防止するためには「空洞化を梃子(てこ)に空洞化対策を推し進めることが必要」としている。企業レベルでの対策として5項目、国の政策レベルで6項目を具体的に示し説明を加えている。昨今、元高観測を反映した巨額の資本流入が取りざたされている。人民元が切りあがる公算が、国内生産を増大させ、ひいては空洞化抑制に結びつく要因になる、との見方も必要であろう。
 
0406  庵を結び炭をおこす
発行所 株式会社ビジネス社
2003年12月12日発行
212ページ/定価1600円(税別)
著者 松村賢治
 「ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。・・・」で始まる、「方丈記」を書いた鴨長明はどのような庵(いおり)でこの書を書いたのかご存知だろうか。長明は大八車2台に積んで、どこにでも移し替えられる組み立て住宅を京都の南東、宇治桃山の南麓、日野の里山に「方丈庵」を結んだ。屋内の広さは「方丈」、すなわち1丈(約3M)四方の正方形で約9平方メートル(約5畳)程度。長明はそこで「方丈記」を書いた。1212年、58歳の時。本書には著者独自の方丈庵の復元図がイラストで示してある。
 著者は、長明の「方丈庵」を原点とし、「21世紀の方丈庵」を提案している。ゼネコンの設計部や設計事務所の経験のみでなく、世界一周をするまでに親しんだヨットのキャビンのリッチで合理性な空間、地震による大津波で被災したパプアニューギニアでのゲストハウス造り(NGO団体大阪南太平洋協会の活動)、デンマークで見た手造りハウスの新鮮な驚き、いなかの民家、江戸・明治時代の長屋などの多彩な経験や知識が生かされている。著者が提唱する「21世紀の方丈庵」の数例が図面つきで示されている。著者の主張は庵のことのみでない。「週末いなか暮らしのすすめ」のあと、「暮らしに炭火を」では、生活の中での「火」を取り上げている。震災体験の教訓として都市と田舎の交流ロッジに囲炉裏を導入しようと考えたこと、火を囲んだ対話が人の心をオープンにすること、七輪の効用を発展させた七輪内臓の卓袱台「まが玉姫ちゃぶ」を開発し普及させる試みが語られている。
 現代の世の流れは「退廃途上国」に向かっているとの問題意識を持ち、「自分に出来ることから始める」ことのひとつとして、炭火のある「21世紀の方丈庵」を提案。庵の作り方においても、インターネットで仲間を集め、オーナーの役割が定められ、ボランティアで労働力を提供した人は、年間何日かの庵の利用権を得る方式がとられる。これは、「結(ゆい)」とか「もやい」という21世紀の互助制度でもある。
  本書は、『旧暦と暮らす』の続編である。著者は、旧暦による自然とともに生きる知恵や庵造りをとおして生まれる都会と田舎の交流など、21世紀の新しい文化について語ろうとしている。
 
0405  「入門」ユビキタス・コンピューティング
発行所  日本放送出版協会
2004年1月10日発行
222ページ/定価680円(税別)
著者 滋賀嘉津士
  「ユビキタス」はラテン語で「遍在する」との意味であるが、1980年にゼロックスのパロアルト研究所のマーク・ワイザー博士によって提唱された概念である。
  わが国では、1999年8月に(社)日本電子工業振興協会の「電子情報技術長期戦略シンポジューム」のなかで荒川康彦教授(東京大学先端科学技術研究センター)より「ユビキタス情報社会へ向けた産業技術戦略」が報告された。この内容は同協会で平成9年から10年にわたる委員会活動の後半の成果を要約したものである。この報告では、ユビキタス情報社会を「安全性の高い多用なネットワークが形成されており、様々な活動シーンにおいて、時間や場所の制約を超えて、必要とする情報を誰もが意識しないで簡単に安心して活用できる社会」と定義している。同協会の報告は、「ユビキタス社会」のイメージ(コンセプト)を描き、必要とされる技術開発戦略を提言している。
  「ユビキタス」という言葉は、今日ではITにかかわる人々の間では日常的に使われるようになり、新聞紙上でも頻繁に見られるようになった。しかし、「ユビキタス」という概念はそれぞれの立場や考え方によって異なって使われている。ユビキタスを広く捕らえた「ユビキタス社会」、技術面より提唱する「ユビキタス・ネットワークやユビキタス・コンピューティング」に大別されるであろう。 本書は、「ユビキタス」にかかわる技術を抽出し、それぞれ技術の内容を解説し、その技術が社会や人々の生活にどのような変化をもたらすかを丁寧に説明している。最初に、モバイル機器の活用について、次にユビキタスにかかわる技術の進化について。さらに、家庭と街でコンピュータが「あまねく在る」生活について紙面を割き、家電のネットワークへの接続、放送とインターネットの融合、ICカードと電子マネー、住基ネット、電子ブック、ICタグ、車のIT化(テレマティクス)、などの技術メニューを取り上げている。
  技術の進歩はめまぐるしいものがあり、新しい生活のイメージは無限に広がっていると言えよう。本書では技術が生活に及ぼす影響に述べてあるので、そこで示される生活は断片的であるが、来るべき「ユビキタス社会」での生活イメージを先取りすることが出来る。
 
0407  逆システム学
発行所 株式会社 岩波書店
2004年1月20日発行
243ページ/定価780円(税別)
著者 金子 勝・児玉 龍彦
  「逆システム学―市場と生命のしくみを解き明かす―」という本のタイトルと、本の帯に書いてあった「新たなパラダイムの提唱」というメッセージにまず魅力を感じた。本書は市場経済を専門とする金子勝氏と生命体を専門とする児玉龍彦氏の共著である。市場経済や生命体という一見異なった分野の二人が、枠組みを超えて対話し、「逆システム学」という手法を共有して、それぞれの分野に相乗効果を求めようとする試みに興味を持った。
  「逆システム学」は、人間や社会が本質的に抱える、たくさんの要素からなる複雑な仕組みを解明し、現実的に有効な治療法の開発や経済政策の樹立のために生まれた手法である。従来、現象の本質に迫る方法として相対する二つの立場があった。一つは「要素還元論」で、本質的な要素を抽出し、個別の要素から理論を組み立てていく。それに対して構造論や複雑系などの立場に立つ「全体論」では、個々の要素を規定する本質的な構造を既定し、理論を組み立てていく。「逆システム学」では、市場経済や生命体の本質を「制度の束」と「多重フィードバック」と捉える。システム全体がわからない段階でも、部分的に理解できている制度や制御の仕組みをもとに、ある政策や治療の含みうる問題点を予測しようとする。
  本文中には、二人のそれぞれの専門の立場より、「逆システム学」に係わる事例が示してある。調節制御の基本的なしくみを、「信号を捉えるセンサー(感知器)、信号を伝える伝達系、遺伝子を動かす制御系(制御淡白)と捉え、この調節制御による多重フィードバックは階層的構造をとる」ことを市場経済に応用した。不良債権問題、年金制度の崩壊、公共事業政策の行き詰まりなどは今日の大きな問題であるが、「逆システム学」的なアプローチと分析には説得力がある。生命体の事例として取り上げた「病気の逆システム学」なども身近な問題だけに理解しやすい。
  パラダイム、システム学、市場経済、生命体などについての知識がないと、本書に書かれている内容のすべてを理解することは困難である。しかし、現代の混沌とした中で複雑な事象を解明し対策を見つけるために有効なアプローチの手法であると思う。当面している問題の分析に応用することをお勧めしたい。


0409 電波開放−情報通信ビジネスはこう変わる−

発行所 東洋経済新報社

2004年3月18日発行

177n/定価2200円(税別)

著者 炭田寛祈

  2003年末に地上デジタル放送が開始された。開始当初の受信可能範囲は限られていたが、関東での視聴地域の拡大が200410月(当初予定は2004年末)に前倒しされる見通しとなった。地上デジタル放送を全国展開するためには「電波利用」について大変な作業が行われ費用も投入されている。地上デジタル放送にはUHF(極超短波)帯が使われる。現在アナログ放送にはVHF(超短波)とUHFが使われているので、地域ごとの調整が必要である。また住宅においても、各戸ごとの受信機のチャンネル設定やアンテナの方向を変えることが必要となる。その数は全国で426万世帯と想定されており1800億円が投入される。平行して続けられる現行のアナログ放送が、2011年には打ち切られ、使われなくなる周波数帯が解放されるので、新たな有効活用が期待される。地上デジタル放送にかかわる電波利用については今日的話題のひとつである。

 本書では、電波とは何か、電波の利用状況、電波の認可や電波政策ビジョンなど行政上のさまざまなこと、電波利用料、今後の電波に関わるビジネスの展開まで、電波に関わる多くのことが記されている。著者は、2010年頃の情報通信産業を展望する時に、ワイヤレス化、IP化、ブロードバンド化、通信料金の定額・低廉化を4つのキーワードとしてあげている。中でも無線による電波の利用については「無線ビジネスなくしてITビジネスはない」と言い切っている。「ユビキタス」は今後の大きなトレンドであり、携帯電話・無線LAN・電子タグ(RFID)・超広帯域無線システム(UWB)などについて、現状と今後の展望について詳述している。

 電波利用の認可や電波の利用料は、利用者のビジネス展開に大きな影響を及ぼす。電波は限られた資源であり市場原理に基づくという発想で、欧米の一部では電波割り当てにオークション行われているが、著者は慎重な立場をとっている。

電波利用は、ejapanにおける利活用の促進にも大きな影響を及ぼすものであり、わが国の経済発展の一翼を担うと言っても過言ではない。本書により電波に対する理解が深まり、今後の電波利用の方向付け役立つことを期待したい。



0410 社会企業家−社会責任ビジネスの新しい潮流−

発行所 株式会社 岩波書店

2004年7月21日発行

246n/定価780円(税別)

著者 斎藤 槙

 

 2004年の2月に2日間にわたって「シニアネットフォーラム21」が開催された。私の属するNPOが当日の運営を任され、私もひとつのワークショップのコーディネータを受け持った。このフォーラムで感じたことは、シニアの社会貢献などに対する旺盛な活動意欲を認識すると共に、NPOなどの組織形態をとる「シニアネット」の基本的な考え方や行動に差があることだった。この会へ慈善団体の参加はなかったが、「事業型」を標榜する団体と「理念型」を目指す団体があった。「事業型」においては、通常の企業活動と同じように複数のNPOが企画を競い合って、自治体の仕事の受注に凌ぎを削るのもいとわないという例が紹介された。一方「理念型」においては、団体の経営基盤の弱さに悩みを持つ姿も見受けられた。「事業型」と「理念型」のどちらがいいというわけではないが、このフォーラムでは、参加した各人が自分の属する団体の今後の活動に参考にしようと熱心な討議が行われた。

本書はまさにこのような問題意識に対しても核心を突いた内容が含まれているが、「NPOのような企業、企業のようなNPO」などの言葉に集約されるように視野はもっと広い。

 著者は広告代理店電通で「企業の評価やイメージはどうしたら向上できるか」を5年間毎日考えた。その後コロンビア大学の大学院で企業の社会責任を勉強し、社会責任格付け調査機関や労働環境の規格化を手がけた組織などで仕事をした。著者は、これまでの経歴のなかで知った米国や日本の「社会起業家」のたくさんの事例を紹介している。

 著者は、「社会起業家」という1980年代初頭にイギリスで生まれた概念を、現在は「働くという行為を単に収入を得る手段としてだけでなく、自己実現の場と考えている点、社会や環境や人権など、地球規模の課題や地域社会が抱える課題に対して使命感を持って挑み、事業を行っている点」に特徴があると言っている。「社会をよくする」という目標に向けて忠実に行動する「社会起業家」のアプローチの方法として「純粋な社会貢献と純粋な商業主義」を両極と位置づけ、様々な理念と行動様式を提示し、行政・企業・NPOなど単独では出来なかった新たな枠組みについてもヒントを与えてくれる。


0412 ユビキタス技術−ホームネットワークと情報家電−

ユビキタス技術

―ホームネットワークと情報家電―

発行所 株式会社 オーム社

2004925日発行

234n/定価3000円(税別)

監修 丹 康雄

 

 プロ野球界では、球団の再編に伴う新規参入や球団買収の話でにぎわっている。ライブドア・楽天・ソフトバンクなどのIT関連企業が新しい業種としてプロ野球の経営に名乗りを上げているが、経営者の交代にとどまらない変化が予感される。インターネットで野球を見ることができることは、これまでの野球に関わる球団経営や放送のビジネスモデルが変化することを暗示している。

 家庭においては、インターネットで送られてくる野球をパソコンで見ることが出来るようになる。しかし、インターネットで送られてくる映像を、ホームネットワークを介して大型のテレビで見ることは現時点ではほとんどの家庭で不可能である。「放送」と「通信」の融合はこれからのトレンドであるが、テレビ受信機や宅内のネットワークの具体的な方向についてはは不透明な点が残っている。以上の例は住宅の情報化における今後のトレンドと課題の例であるが、技術開発や標準化について解決されるべき事項が多く存在しているのも事実である。

 本書は1999年から活動を開始した「宅内情報通信・放送高度化フォーラム(通称、宅内フォーラム)」の活動の成果を纏めたものであり、ホームネットワークの現状と課題を整理し、技術開発や規格化の方向を示している。本書の前半は、通信系の基幹ネットワーク・ホームネットワークと放送の現状や今後の方向を生活の変化の視点をまじえて概観している。後半は技術に特化して、情報家電の相互接続も視野に入れたホームネットワークやゲートウエイの基本構造や標準化について詳述している。本書は現実に情報家電やホームネットワークの開発に携わっている技術者により執筆されており、住まいにおける情報化の現状と今後の方向を知るのに時機を得た内容になっている。

 総務省では「デジタル情報家電のネットワーク化に関する調査研究」の成果が8月27日に公にされた。ここでは、デジタル情報家電のネットワーク化に向けた総合的な推進方策が取りまとめられている。経済産業省でも同種の研究が実施されている。これらの成果をもとに住まいにおいても来るべき「ユビキタス社会」の恩恵を受ける日が早く来ることを期待したい。