編集後記集
【メルマガIDN 第118号 070301】

戸田幸四郎の絵本「竜のはなし」
 06年4月に私のホームページで「龍の謂れとかたち」というページを立ち上げた。自分で実際にかかわりのあった「龍」についての簡単なコメントをつけて紹介している。そのいくつかは、編集後記でも取り上げたこともあり、最近になって龍に関するニュースを提供していただくことも多くなった。
 戸田幸四郎の絵本「竜のはなし」を頂いた。大型で手に持ったときのずっしり感がなんともいえない感触。本体はすばらしい装丁が施されており、表紙と同じ絵が描かれているカバーがついている。
 書籍名:竜のはなし
 出版:戸田デザイン研究室
 サイズ:312mm×232mm
 発行年月 1983.12

 戸田幸四郎という作者も始めて聞く人であり、早速ネットで調べてみると有名な人であることがわかった。1931年山形県に生まれる、1982年フリーデザイナーより絵本の創作活動に入る、「とだ幸四郎名作絵本集」他、「あいうえおえほん」をはじめとする、数々の知育絵本がロングセラーとなる、その他、環境問題をテーマにした「おいたてられた2匹のカエル」等がある、との紹介があった。
 また、熱海市の上多賀に戸田幸四郎絵本美術館があることもわかった。太宰治の「走れメロス」、宮沢賢治の「竜のはなし」等、名作絵本の原画や、数々のロングセラー知育絵本の原画をあますところなく展示してあるとのこと。

 キャンバスに油絵とおぼしき重厚な絵と短い文章で構成された絵本である。一度目を通して、あとがきの最後に、「竜のはなし」の書名について、宮沢賢治作品集の中の「手紙一」を了解を得まして「竜のはなし」と致しました、と書いてあり、宮沢賢治とのかかわりを知る。

 宮沢 賢治(1896年-1933)はあまりにも有名。書棚に並んでいる筑摩書房の現代日本文学大系(S44)の宮澤賢治には、《銀河鉄道の夜、風の又三郎、春と修羅、よたかの星、どんぐりと山猫》などが入っているが、「手紙一」は見当たらない。図書館も休みだったのでネットに頼ることにした。

 宮沢賢治学会イーハトーブセンターで、マイクロテクノロジー社の「宮沢賢治全童話集」のテキストファイルからHTML形式に変換して、全98編の童話が読めるようにしているものを見つけた。手紙シリーズに4作があることを知り、「手紙一」の全文を読むことができた。
 改めて絵本の文章と宮沢 賢治の「手紙一」を比較してみると、絵本の文章は平易な言葉に書き換えられており、ルビなども丁寧にふられているが、「手紙一」と全く同じといって良い。

【追記】千葉市の図書館のシステムが変更になり、3月1日に再開したので、校本 宮澤賢治全集第十一巻(筑摩書房発行 昭和49年9月初版発行)を借りてきて、全く同じ文章であることを確認した。
 なお、絵本では、最後の「このやうにしてお釈迦さまがまことの為に身をすてた場所はいまは世界中のあらゆるところをみたしました。」という一文は省かれていることを再確認した。(下記の内容紹介では11の後に相当する)

絵本は11葉の絵と文章で構成されている。以下に絵の順序に沿って内容を紹介する。
 1)むかし、あるところに一疋の竜がすんでいた
 2)あらゆる生き物を、その毒気で死に至らしめる力を持っていたが、すべてのものを悩まさないと誓った
 3)ある時、静なところを求めて林の中にはいり、道理を考えながら眠る
 4)竜は眠ると蛇のかたちになり、からだにはきれいな瑠璃色や金色の紋があらはれる
 5)漁師たちがやってきて、珍しい皮を、王様に差しあげようと思う
 6)無抵抗を誓った竜は、猟師たちに皮を剥がれ、痛さをこらえ、毒を人に当てないように息をこらす
 7)竜は皮のない赤い肉ばかりで地に横たわる
 8)かんかん照りの熱さに耐えかねて、水のある場所へ行こうとした
 9)沢山の小さな虫に、だまつてうごかずにからだの肉を食わせる
10)竜はとうとう乾いて死んでしまう
11)死んで竜は天上に生まれ、後にお釈迦様になってみんなにしあわせを与へた 

 では、ここから何を読み取るか?
宮沢賢治は「手紙一」の最後に、「このはなしはおとぎばなしではありません。」と書いており、絵本ではこの言葉が表紙をめくった最初のページに書かれている。

 戸田幸四郎があとがきに書いているメッセージに思いがこめられている。
 この「竜のはなし」は生きものを愛し自然を愛し、まことの道のために、生きつらぬいた賢治の思想の大事な一面を端的に浮き彫りにしている作品ではないでしょうか。現代社会にこそとりもどさなければならない賢治の精神に感動を覚え真正面から取り組みました、この絵本のテーマについて、本気で語り合える親子を願ってやみません、と言っている。

 この絵本を親が子供に読んで聞かせたり、親と子が一緒に読んだりすることもあろう。子供たちがこのお話の意味を完全に理解できないながらも興味を持って何回も読みかえす様子が想像できる。
 また、子供たちを相手にした読書会で取り上げてほしい。私の周りには現在子供が居ないので、実際に読んであげて、話し合って反応を見る機会がないのは残念である。
 
 私のホームページに、「手紙一」の全文を載せている。宮沢賢治の死後70年以上を経過しているので、著作権としての問題はないと思われるが、宮沢賢治学会イーハトーブセンターでプロデュースを担当している渡辺 宏様より利用する許可をいただいている。

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