編集後記集
【メルマガIDN 第126号 070701】

■坂井直樹氏の「コンセプト気分の時代」
 6月18日のふれあい充電講演会「教育現場に密着したキャリア教育支援の展開」の後、講師の宮崎さんと話をしていて、宮崎さんが長年オリンパス(オリンパス光学工業株式会社)で顕微鏡の開発をされていたことを聞いた。現在は社名が変わっている、オリンパス株式会社のホームページで、「顕微鏡」は、1590年ごろ、豊臣秀吉が全国統一を果たした時代に出来たことから、システム化され進化する戦後の顕微鏡の歴史を勉強した。
 オリンパスの顕微鏡の開発の歴史を見ているときに、古い記憶の中に坂井直樹氏と彼の本のことを思い出した。そして、書棚の隅に彼の著書「コンセプト気分の時代(かんき出版より1990年4月発行 )」を見つけた。

 1993年から1994年にかけて、私の知人のKさんが主催した「マインドギア・フォーラム」(全7回開催)に参加した。松岡正剛氏と竹村真一氏が毎回ホスト講師としてコーディネーター役をはたし、それぞれの回のテーマによりゲスト講師が登場した。松岡正剛氏からは、情報化時代における「編集」を「工学」する意味と重要性を教わった。
 当時資生堂の社長だった福原義春さんからは、資生堂のコーポレートカルチャー・企業文化の創造と継承・多元の価値に基づく経営の話を、小布施を景観重視のうるおいのある美しい町にしようと最初に行動を起こした、小布施堂の若社長の市村次夫さんの話など、10年以上たった今も印象に残っている。
 第5回(1994年2月)の講師として坂井直樹氏が登場した。当時彼は、日産自動車の「Be-1」や「PAO」のコンセプトづくりで有名になり、たくさんの企業より支援を求められていた。彼はかかわった仕事の事例のひとつに、宮崎さんの会社であるオリンパスの「O・Product」を取り上げ、コンパクトカメラの商品開発とデザインのコンセプトについての彼の考えとアプローチの仕方を披瀝した。
坂井:どうしてオリンパスは革新的で、わざと売り上げの少ないところでやろうとしたんでしょうか?(標準より高めの価格設定で生産台数も少なめ(2万台)、企業の狙いは何か)
生部:企業イメージですか
坂井:そうですね。これを当てる人はなかなか珍しい。なぜ企業イメージと思いますか。直感ですか。
生部:実際に売り上げることと、品物が出すイメージとは違いますが、イメージを作って従来型の製品をひっぱろうということではないでしょうか。
 こんな会話がフォーラムの記録に残されている。坂井直樹氏は私の回答が気に入ったと書いて、数日後彼の著書を送ってくれた。その本が「コンセプト気分の時代」。表紙のカバーには、「第3の感性」を書いた谷口正和氏の推薦の言葉が書かれている。
 坂井直樹氏は「コンセプト気分の時代」の中で、「大衆を九つに分ける エモーショナル・プログラム(EP)」を紹介している。大衆(消費者)を九つのセグメントに分けてそのニーズの特性を捉えようとするものである。坂井直樹氏は、このEP表は、衣、食、住、遊、知、飾、健、音、車、などに適用できると言っている。氏は、あくまでも1990年版だと理解してほしいと書いているが、現在でも十分通用するものだと思う。あえて変化を求めるとすれば、ICTの進歩であろう。WEBを活用したマーケッティングの手法はこの当時では想像できなかったことである。
 氏のホームページを開いてみると、コンセプターとしての坂井直樹氏は活動を続け、今日も活躍していることを読み取ることが出来る。2000年に米国NIKE本社で行われたCreative Design Conferenceにゲストとして招待されて、3000人のデザイナーに、彼のプロダクツと、20年来独自に開発してきたマーケッティングの手法であるEPについて講演したことも記されている。また、オリンパスの関連で言えば、「CAMEDIA C21」にもかかわったことが紹介されている。
 この本にはたくさんの魅力的な言葉が連なっている。消費者はコンセプチュアルなものに魅かれる、機能やデザインの良さだけじゃなくある種の気分を持つ商品がウケる、ヒット商品には時代を串刺しする共通のトレンドがある、コンセプトとは一種の悟りであり理詰めで理解するものではない、などと思いを馳せながら、「商品の魅力製造業」、「感動製造業」としてのコンセプター業を継続しているように見える。
 マインドギア・フォーラムのときから13年も経過しているが、最近の坂井直樹氏の活動の実績と彼の現在の考え方を知ると、また新しいヒントを得る事がたくさんあるように思える。ふれあい充電講演会で宮崎氏にお会いして、こんなことが遠い記憶の中に残っていたことを思い出し、ちょっとうれしくなった。【生部】

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