編集後記集
【メルマガIDN 第143号 080315】

■編集後記 スペインの小さな街の祭り《フェスタ・マジョール》 
 スペインにあるソルソーナ市は、人口1万人ほどのバロセロナの北西125kmに位置する小さな街である。毎年9月7~9日が《フェスタ・マジョール》と呼ばれる祝祭日。街から外に出ている人たちも、秋のお祭りの時期にあわせて帰省して祭りを楽しむ。
 マジョールは大きい、偉大などを意味することから、市では最大の祭りである。カタルーニャのジェガンツ(巨大人像)を持つ街や村では、伝統的にジェガンツを最大のイベントとして登場させ、パレードと舞踏をする慣わしがある。ソルソーナでも、宗教的な教会ミサ、深夜のダンス大会、さまざまなコンサート、美術・工芸展、写真コンクールなども同時に行われる。

 この《フェスタ・マジョール》の行事のひとつとして、黒いマリアのある格式の高いカテドラルのギャラリー(回廊と中庭)を借りて行った「花展」に日本から17名が参加した。忙しい準備と主な行事を終えて、ソルソーナの祭りを楽しんだ。

前夜のオープニング・セレモニー
 2007年のソルソーナの《フェスタ・マジョール》は、9月6日の夜の8時よりオープニング・セレモニーで始まる。KEN OFFICEの代表の佐野虔之介さんが主催者としての開会の挨拶のあと、バルセロナからきた佐藤領事、市長の順に挨拶があり、日本より参加した松風花道会の大崎会長も挨拶をした。

 恒例になっているソプラノの歌を聴いて、乾杯し、懇談に移る。しばらくの休憩のあと、カテドラルの中にあふれんばかりの市民が集まり、マリア様の前で聖歌隊と市民グループの合唱を聞く。合唱団の中にアルトのパートの一員である和子さん(虔之介さんの奥さん)の顔も見えた。合唱が毎年のオープニングセレモニーの最後を飾るらしい。

祭りは昼から始まる
 祭りの当日のイベントは、ソルソーナの旧市街の中心部のひろばで執り行われる。今回の花展をコーディネートしてくれた虔之介さんのオフィスはこの広場に面した2階にあり、祭り見物の絶好の場所となっている。
 9日の午前中に、ひろばに面した窓の重い扉を取り外すのを手伝って祭りの開始を待った。広場に面したすべての建物の窓は見学する人で鈴なりになっていた。

 昼過ぎからパレードと舞踏が繰り広げられた。動物などの祭りの出演者がたくさんの見物客をかき分けて行進してひろばに登場、最後に鼓笛隊に導かれて市長や司祭などこの街の要人が行進して着席し、祭りの準備が整う。

 場の雰囲気が盛り上がったところで、それぞれのパーフォンマンスが繰り広げられる。クライマックスは最後の《ジェガンツの舞》であるが、その前に、熊、11頭の馬、ドラゴン、大頭、バトン、ワシなどの舞が前座のような趣で披露される。

オソス(熊の舞)
 1727年に初めて登場したとされる。祭りの開幕を告げるもので、1956年以降4頭の体制で動物の舞の導入役を果たしている。

カバィェッツ(馬の舞)
 1692年が最初とされる。先導者に導かれて11頭の馬による舞。8世紀以降中世期にいたるサラセンとクリスチャンの戦いを主題に、当時の騎士の力強さを表現する。馬の担ぎ手は、11歳から14歳までの男に限られていたが、女子も参加可できるようになった。

ドラック(龍の舞い)
 この龍(写真参照)の重さは96kgあり、動物たちの登場者の中では一番古い建造(創り)である。形状などは1692年に登場した時代のままとされる。口元に取り付けられた爆竹が火を噴き鳴り響く踊りは、顔つきの凶暴さからも動物たちの踊りの中で最高のショーであり、最大の見ものとなっている。踊りのクライマックスを演出し、祭り全体を大きく彩る役割となっている。
ドラックの舞い(重さは96kg)  ジェガンツの舞い(ジェガンツの高さ4mほど 重さは60~70kg)
ナンズ(大頭の舞)
 カップ・グロス(大頭)ともいう。4つの大陸の人種をシンボル化している。踊りは、人種間の友好を表し、音楽に合わせた振り付けは愉快で、楽しいものとなっている。

バユ・デ・バトンス(バトンの舞)
 1680年以来の伝統がある。先導者と16人の子供たちで構成される。踊りは4つのパートから成り立ち、音楽と振り付けが異なっており、打ち鳴らすバトンの音が心地よい。

アリガ(ワシの舞)
 シゥタット(シティ)の称号のある街のみが特権的に所有できた街のシンボル、エンブレムである。ソルソーナは1676年以降この特権を所有している。特定の人物の前で踊られる舞は、その人物にシュタットの鍵を渡すことになっていた。

ジェガンツ(巨大人像)の舞
 ジェガンツ(巨大人像)は、最後にメインイベントとして登場する。ソルソーナのジェガンツは、1677年までに2体の存在が記録されている。1727年に現在まで続く2組4体となった。(写真参照)

 高さ4mほど。重さは60~70kg。2対4体は、キングとクイーン、その娘のプリンセッサ(姫君)と遠い国から来た未来の花婿のプリンスである。
踊りの意味はおおよそ下記の内容になっており、フラビオルという伝統笛の音に合わせて舞われる。
遠い国からプリンスが結婚の申し込みに来た。未来の義父と義母に挨拶をして、
「結婚してもよろしいでしょうか? プリンセスを妻に迎えたいのですが・・・」
「うん、君なら良いだろう。どうかね?クイーン」 「もちろん! いい跡取りになるでしょう」
ということで、無事祝儀が終了する。

 登場した役者たちが退場したあと、ジェガンツの4体がメインスタンド前に整列して、市長や司祭に挨拶をして、しずしずと棲家へ帰って行った。

 人垣が割れてスペースを作ったところに、道路の奥から爆竹の大きな音と煙が迫ってくる。道路に導火線が引かれており、最後に広場の中央でひときわ大きい爆発音がして広場が煙で充満する。その煙とにおいは2階のオフィスの中まで進入してきて、しばらく視界が悪くなるほどほどになった。

 祭りが近づくと、旧市街の街なかに祭りの出し物であるジェガンツ(巨大人像)やアリガ(ワシ)が並び、通りやひろばはざわめいて祭りの雰囲気が盛り上がる。祭りのあとのソルソーナの街には静けさと一抹の寂しさが残ったであろうが、それを知ることもなく、祭りの期間中展示した花の世話を和子さんに頼んでソルソーナを後にした。【生部】

このページの舞の説明は、ソルソーナ在住の佐野虔之介氏より提供の資料を参考にしました。
祭りのそれぞれの舞の写真はこちらをご覧ください。

編集後記の目次へ