編集後記集
【メルマガIDN 第154号 080901】

■龍のコンサート三昧2008 【その7】ドレスデンの歌劇場で《フィガロの結婚》を見た
 5月22日の夕方の6時半ころに、エルベ川の対岸のホテルをバスで出発し、東ドイツ時代は《ドレスデン国立歌劇場》という名前で親しまれ、現在はザクセン州立歌劇場となっている《ゼンパー・オーパー》に向かう。10分ほどで劇場広場に到着。バスを降りて、劇場広場を横切って《ゼンパー・オーパー》の中に入り、自分の席を探す。
 ここでは、ホワイエやロビーを歩き回ることはせず、新古典主義建築の代表作いわれる、客席の内部の装飾や緞帳を見ながら《フィガロの結婚》が始まるのを待つ。
 ヨーロッパのオペラの開演時間は夜の8時とか8時半が多いが、ここでは7時過ぎに始まる。まず緞帳が上がり、指揮者が登場し、序曲が終わって幕が上がった。
ゼンパーオパーの内部 バルコニー席を見る ゼンパーオパーの緞帳
《フィガロの結婚》はウィーンで作曲された
 モーツァルトが作曲したオペラは21曲を数えるが、《フィガロの結婚》、《ドン・ジョバンニ》、そして《魔笛》がモーツァルトのオペラの三大傑作といわれている。
 モーツァルトは1781年にザルツブルクをはなれ、ウィーンに定住。モーツァルトは1785年10月末から《フィガロの結婚》の作曲を始め、翌年4月に完成し、初演はウィーンのブルク劇場で行われた。
 ウィーンのモーツアルトの住まいのあとは、《モーツァルト記念館(旧 フィガロハウス)》として公開されており、《フィガロの結婚》の初演のプログラムや初演のシルエット画などが展示されている。2006年にウィーンを訪れたときに、復元されたモーツアルトが暮らした部屋なども見学した。

《フィガロの結婚》の説明とあらすじ
 オペラ《フィガロの結婚》の原作は、ボーマルシェの戯曲《フィガロの結婚》である。内容は封建時代の伯爵家に仕えたフィガロとスザンナの結婚を主題に貴族を痛烈に批判した内容になっている。作曲された当時は、ウィーンよりもむしろウィーン皇帝の統治下にあったプラハで大ヒットし、プラハの国立劇場からは《ドン・ジョヴァンニ》の作曲依頼を受け、《ドン・ジョヴァンニ》もプラハで人気を博した。

 オペラ《フィガロの結婚》は四幕構成になっており、アルマヴィーヴァ伯爵の従僕であるフィガロと伯爵夫人の侍女スザンナの結婚のお話を中心に展開する。
 夫人に倦怠を覚えている伯爵は廃止した初夜権を復活したいとたくらみ、下心を持ってスザンナに言い寄る。好色な伯爵を懲らしめるために一計が案じられる。偽の手紙により、伯爵とスザンナの逢い引きの場をつくり、伯爵夫人はスザンナと入れ替わり、彼女になりすまして逢い引きの場に臨む。伯爵夫人と知らず、持参金をあげると言い、高価な指輪を贈る伯爵。伯爵の野心の現場を押さえ、フィガロは無事にスザンナとの結婚にこぎつける。

 大筋はこんなところであるが、フィガロは、女中頭のマルチェリーナに借金があり、返せない場合は、彼女と結婚するという約束を交わしていた。実は、マルチェリーナはフィガロの母親だった、という話や、ケルビーノという少年も絡んで、ストーリーは輻輳している。流れをよく理解していないとドラマの進行についてゆけないほどである。

《フィガロの結婚》 当日のプログラム

革新的な現代演出による《フィガロの結婚》
 1785年に作曲されたオペラ《フィガロの結婚》は200年以上もの間にさまざまな形で上演されてきたが、最近になって斬新な演出が見られるようになった。2008年に日本で公演された2つの事例を紹介する

ザルツブルグ音楽祭 2006での革新的な現代演出

 2006年のモーツァルトイヤーのザルツブルグ音楽祭のモーツァルト劇場で革新的な現代演出による《フィガロの結婚》が話題になった。ニコラウス・アーノンクール指揮、クラウス・グート演出、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団、ウィーン国立歌劇場合唱団に歌手も有名人をそろえた豪華版。

 本来の脚本には無い天使ケルビム(モーツアルトの化身?)の登場や、アルマヴィーヴァ伯爵、伯爵夫人、フィガロ、そしてスザンナも、性愛への欲望をむきだしにした演出に違和感がある、との声もあった。

 クラウス・グートが演出した「フィガロの結婚」がそのまま日本で再現された。2008年4月に、名古屋公演を皮切りに、大阪公演を経て、東京文化会館で公演された。指揮は26歳のロビン・ティチアーティ(サイモン・ラトルのお弟子とのこと)、オーケストラは古楽器を使ったエイジ・オブ・エンライトメント管弦楽団。

ラヴィアの新しい演出による《ホール・オペラ フィガロの結婚》
 2008年3月にサントリーホールで公演された《ホール・オペラ フィガロの結婚》が、6月21日のNHK BSハイビジョンで放送された。
 現在イタリアで最も高名な俳優かつ演出家であるラヴィアの新しい演出は、サントリーホールの特徴を生かしたもので、観客に取り囲まれた舞台空間が有効に使われた。

 舞台はスペインのセヴィリア近郊。モーツァルトと同時代にスペインで活躍した宮廷画家ゴヤの絵画を舞台上に散乱させることで、貴族社会であるオペラの時代背景や反骨精神をお客に一目で理解してもらえるようにと、斬新なアイディアを盛り込んだとのこと。ラヴィアは、普通の人間たちを苦しめている権力という暴力をこの作品を通して、過去ではなく今の世界を表現したいと言っている。

 私もこの公演をテレビで見た。かつて見たことのない舞台の構成の中で進行する《フィガロの結婚》を面白く見たが、演出家ラヴィアからのメッセージには気がつかなかった。

当日の舞台
 《ゼンパー・オーパー》でのオペラ《フィガロの結婚》も最近の流れを汲む新しい演出だった。舞台装置は手抜きかと思うほどシンプル。舞台衣装も、男性はワイシャツに背広という現代そのもの。

 当日の顔ぶれは下記のとおり。
  ・指揮:T.ネトビル、演出:D.M.サモライ
  ・配役:フィガロ(J.G.ベロボ)、スザンナ(L.トイシャー)、伯爵(M.ブッター)、伯爵夫人(U.セルビッヒ)、ケルビーノ(S.アタナソフ)

 主人公であるフィガロ役のJ.G.ベロボは太めの黒人。第一印象として違和感を覚えた。その他の配役については、コメントする知識を持ち合わせていない。
 ケルビーノの出征をからかいながら激励するフィガロのアリア《もう飛ぶまいぞ、この蝶々》で第1幕が終わり、第2幕の伯爵夫人のアリア《愛の神よ、安らぎを与えたまえ》はじっくりと聞かせてくれた。
 伯爵の小姓役のケルビーノは思春期の少年だがメゾソプラノの役。狂言回しの役を担っており、ひときわ輝いて見え、軍服姿で夫人にお別れの挨拶にやってきて歌うアリア《恋とはどんなものかしら》にも好感が持てた。

 第3幕では伯爵夫人とスザンナの二重唱《手紙の二重唱》、第4幕のスザンナのアリア《恋人よ、早くここへ来て》など親しみやすいアリアを聴きながら、舞台はクライマックスを迎える。

 自分の浮気現場を一同に見られた伯爵は、スザンナ姿の伯爵夫人の前に跪いて許しを乞い、夫人は夫を許す。
   苦しみ まごつき おろかにすごした今日を
   満足と喜びで終わらせるのは ただ愛の力だけ
   花婿、花嫁よ! 友よ!
   花火を楽しもう 楽しいマーチの音に合わせ 皆でお祝いに駆けつけよう
 最後は主要な役が舞台いっぱいに一列に並んで声の限りに歌って幕がおりた。
フィガロの結婚が終わりカーテンコールにこたえる出演者たち

 大勢の観客に混じって外へ出て、劇場広場の空気を吸う。暗闇の中に明かりを残した《ゼンパーオパー》にしばらく名残を惜しんでから、迎えに来たバスに乗ってホテルへ向かった。
 一旦ホテルに戻ってから外へ出て、最高のスポットといわれている橋の上から、まるで絵葉書のようなドレスデンの旧市街の夜景を見た。《ゼンパーオパー》もほのかにライトアップされて、旧市街のシルエットの中に溶け込んでいた。【生部】

2008年のドレスデンでのコンサート関連の写真はこちらをご覧ください。

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