ファンタジーに登場する龍(竜)

【メルマガIDN編集後記 第255号 121201】

 今年は辰年。ファンタジーの中に登場する龍について取り上げている書籍もあり、ファンタジーは、龍を語る時のひとつのジャンルを占めている。私のホームページ《龍の謂れとかたち》においても、絵本や童話、ファンタジーについても紹介している。第243号では魔法のドラゴン《パフ》を話題にした。今回は、3つのファンタジーを取り上げ、その中に登場する龍(竜)を紹介する。

 
はてしない物語 ハードカバーとボックス
ハードカバーの装丁は赤がね色 アウリンの模様がある


フッフールの背中に乗ってアトレーユは空を飛ぶ
【日本語訳本の挿絵より 部分】


 
ハリーポッターと死の秘宝  上下巻


ドラゴン  口を開くと炎が噴き出す

 
テメレア戦記  オリジナルと日本語訳


テメレアの装備  【日本語訳本の挿絵より】

はてしない物語
 1979年に刊行された『はてしない物語』はミヒャエル・エンデの『モモ』に続く作品である。
 主人公の少年バスチアンがある日、本屋で『はてしない物語』という本を見つけてそれを盗み、学校の屋根裏で読みふけるところから、物語は始まる。

 物語の前半ではバスチアンが本の空想物語の世界に導かれ、虚無が支配ようとしていた《ファンタージエン国》の崩壊を救う。後半は、バスチアン自身がファンタージエン国で冒険し、再びこちらへ戻ってくるまでの物語である。

 物語の中には、中心的役割を果たす、《幸いの竜 フッフール》と《勇士ヒンレックの竜 スメーグ》が登場する。フッフールは《善龍》、スメーグは《悪竜》として描かれている。(ここで私は龍と竜を使い分けている)

 《フッフール》は大気と熱とあふれんばかりの歓びの子。並外れて大きな体にもかかわらず夏空に浮かぶ雲のように軽やかなので、飛翔のための翼はいらない。水の中のさかなのように大空を泳ぐ様は、地上から見ているとゆっくり通り過ぎる稲妻のよう。

 悪竜として描かれる《スメーグ》は、翅はねばねばした幕で出来ていて、広げると32メートル、飛ばないときは 巨大なカンガルーのように立っている。体はかさぶただらけのねずみに似ており、しっぽはさそりのしっぽで、毒針にちょっと触れただけで絶体絶命死んでしまう、後足はばったの足、前足は赤ん坊の手に似ているが、恐ろしい力が秘められている、首は長くてかたつむりの触角のように出したり引っ込めたりできる、3つの頭があり、ひとつは大きくて、鰐の頭に似ていて、口から氷の火を吹くことが出来る、と竜の恐ろしさが強調されている。

 《勇士ヒンレックの竜》のお話は以下のようである。この恐ろしい竜スメーグにオグラマール姫がさらわれる。勇士ヒンレックは、石化した森の中にある鉛のラーガー城の3重の堀を超え、スメーグの急所である鉛の斧を見つけて打ち負かし、姫を助け、父王のもとへ連れ戻す。姫は結婚を望むが、ヒンレックはその気はなくなっていた。
 このプロットは『ゲオルギウスの竜退治(メルマガIDNの238号)』とまるでおなじであり、エンデは、ゲオルギウスのお話を下敷にして書いていると思う。

ハリーポッターと死の秘宝
 J.K.ローリング作の『ハリー・ポッター』の第1巻『ハリー・ポッターと賢者の石』が発売されたのは1997年6月である。2007年7月に発売された第7作目の《ハリーポターと死の秘宝》で完結編をむかえた。
 死の秘宝の第26章の《グリンゴッツ》から27章の《最後の隠し場所》にドラゴンが登場する。

 ハリー達は雪のように白いグリンゴッツの建物の中にあるレストレンジ家の金庫に侵入する。金庫への扉を入って、トロッコに乗って侵入し《盗人落としの滝》に放り出される。先に道を進むと、巨大なドラゴンが金庫に誰も近づけないように立ちはだかっている。
 ドラゴンは、長い間地下に閉じ込められていたせいで、色の薄れた鱗は剥げ落ちやすくなり、両眼は白濁したピンク色。両の後脚には足かせがはめられ、岩盤深く打ち込まれた巨大な杭に鎖でつながれている。棘のあるおおきな翼は閉じられて、胴体に折りたたまれている。顔には何カ所も荒々しく切りつけられた傷跡がある。

 ドラゴンは醜い頭をハリーたちに向けて吼え、その声は岩を震わせた。口を開くと炎が噴き出す。《鳴子》を鳴らすとドラゴンは咆哮を上げながら後退りする。その隙にハリーたちは金庫の扉を開けて、目的とする小さい金のカップのあるところへ到達する。しかしハリーたちは小鬼たちに包囲されるが、ドラゴンを助け、その背に乗って脱出を図る。
 ドラゴンは開けた口から炎を吐いてトンネルを吹き飛ばす。金属の扉を力ずくで突き破って脱出に成功する。

テメレア戦記
 ナオミ・ノヴィックの『テメレア戦記』は2006年3月にニューヨークのデルレイ社より刊行された。
 時は19世紀初頭のナポレオン戦争の頃、帆船による戦争の時代が想定されている。
 ナポレオンが皇帝の称号をうけてすぐ、中国の皇帝がドラゴンの希少種の卵をお祝いの品としてナポレオンに贈った。
 卵を輸送していたフランスの軍艦を英国の軍艦リライアント号が拿捕。洋上で孵化し誕生したドラゴンは《テメレア》と名づけられる。名前は19世紀当時に実在したイギリスの戦艦、テメレア号に由来している。

 《テメレア》は長じて、英空軍のドラゴン戦隊の猛特訓を受ける。重戦闘用の《テメレア》は、頑丈に鋲打ちされた重い皮製のハーネスと鎖かたびらを装着して戦いに臨む。《テメレア》はナポレオンとネルソン提督との海戦の時代に空軍として参戦し、トラファルガー沖の海戦の後のナポレオンの奇襲で大活躍する。

 小説には何種類かのドラゴンが登場する。ドラゴンには種族差があり、優れたものは知性が高く、人間よりも賢い。人間と共存するドラゴンは言葉を理解する。大型種ほど長寿の傾向が強く、寿命は200年ともされ、いずれも雌雄の区分を持ち、卵を産んで繁殖する。

 《テメレア》は、《セレスチャル(天の使い)》の種であり、具体的なイメージとしては、卵から生まれたときは鼻先から尻尾まで漆黒の体、翼のふちにだけグレーと輝くブルーの楕円の斑紋が散っている。5本のかぎ爪を持ち、翼を構成する骨の数は6本、頸の回りに巻きひげが出来ている。顔を取り囲むしなやかな角状の突起の間に繊細なレースのような冠翼を形成。すさまじい咆哮は音というよりエネルギーの塊で絶大な破壊力を持つ。

 大きさについては、孵化してから6週間で9トン、成長したらその倍になるだろうという記述がある。 《テメレア》の大きさについては記述がないが、中型のイエロー・リーパー(12~15トン、体長50フィート、翼幅80フィート)を参考にすると、相当な大きさである。

エピローグ
 今回は、龍(竜)のかたちにこだわって紹介した。『はてしない物語』においては、作者の意図したことへの考察、また、映画『ネバー・エンディング・ストーリー』との比較も試みたいと思うが、「けれどもこれは別の物語、いつかまた、別の時に話すことにしよう」。『はてしない物語』のフレーズを借りて、ファンタジーに登場する龍(竜)の紹介を終わることにする。

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