辰年に息づいた三博の龍

【メルマガIDN編集後記 第256号 121215】

 ここでいう三博とは、東京国立博物館(東博)、国立歴史民俗博物館(歴博)、江戸東京博物館(江戸博)のことである。今年は辰年。2011年の暮れから2012年にかけて、それぞれの博物館では、特別展や企画展として、保有している龍にまつわる自慢の品が展示された。同時に、フォーラムやミュージアムトークなど、色々な催しが行われた。今回は、3つの博物館のイベントを中心に登場した龍たちを紹介する。


東博の会場の案内

図集『天翔ける龍』

サイバーギャラリー 東博の龍


歴博のちらし

歴博のフォーラムの資料


江戸博のちらし

十二支見立て職人づくし


鴨川市郷土資料館のちらし

雲龍図 狩野即誉 筆

東京国立博物館(東博)
 東京国立博物館(東博)では、「東京国立博物館140周年特集陳列 天翔ける龍」(2012年1月2日~2012年1月29日)が開催された。
 新年の初めに2012年の干支である辰、龍にちなんだ作品の数々をご覧いただきます。人間の想像力が作り出した架空の生きもの、龍は世界中に伝わっています。中国の龍、西洋のドラゴン、インドのナーガなど、いずれも長い体をしていて、特別な力を持っていることが共通しています。
 今回みなさんにご覧いただくのは、中国で生まれ、朝鮮半島や日本に伝わった、日本になじみの深い龍です。幾千年という長い時間をかけて龍のイメージは展開し、さまざまな役割を与えられてきました。同時に人びとは龍の姿にさまざまな意味や願いをこめ、絵画、武器、鏡、器、衣服などいろいろなものに表してきたのです。
 当館が所有する日本、中国、朝鮮半島の作品を通し、ひとびとが、龍の姿に託した思いをたどってみましょう。
 このような趣旨のもと、ジャンルや時代の異なる77の作品を、龍というモチーフがつないで展示された。

 展示室は2つに分けられており、第1展示室には、龍と仏教・翼のある《龍応》の2枚のパネル、第2展示室には、龍のルーツ・ 五爪の龍・龍と一緒に描かれるもの、3枚のパネルが掲げられ、異なった切り口により、《龍》の意味するところについて説明されていた。

 特集陳列「天翔ける龍」の展示作品を中心に、東博が所蔵する龍を意匠とした作品を紹介する図集『天翔ける龍』が出版された(2012年1月2日発行)。
 本図集の作品リストによると、掲載件数は104件を数えるが、東博が所有する龍をモチーフとした作品のすべてを網羅したものではないようである。私が以前に東博で見たもので、ここに掲載されていないものもたくさんある。東博の収蔵品の奥の深さを改めて感じる。

国立歴史民俗博物館(歴博)
 歴博では、平成23年度第3展示室特集展示、「もの」から見る近世「たつ年の龍」(2011年12月20日~2012年1月29日)が開催された。
 今回の特集展示では、平成24年度の干支である「辰」にちなんで、館蔵の近世資料のなかから、龍にちなむ楽器、工芸品や版画などを選び、一口に龍といっても、その意匠が多様であったこと、いくつかの種類が描き分けられていること、あるいは江戸後期の庶民文化と龍の意匠がかかわりを持つことについて、垣間見ようとするものである。このような趣旨のもと、展示スペースが構成されていた。

 歴博の展示の中で、私にとって珍しかったのは、龍笛・笏拍子(しゃくびょうし)・太鼓・箏など楽器に描かれている龍のかたちだった。

<フォーラム>
 民博では、第81回歴博フォーラム「新春たつ」(2012年1月21日 ヤクルトホール)も開催された。
 今年の干支は龍・竜・たつ。皆さんは龍に対してどのようなイメージを持っていますか。龍は歴史の流れの中で、さまざまな姿を見せてくれます。描かれた龍 造られた龍 語られた龍 さまざまな龍を用意して、皆さんをお待ちしております。
 このような趣旨により、龍の民俗、龍の伝承、龍の姿-美術工芸品に見る龍の表現、浮世絵に描かれた龍、江戸の龍-江戸藩邸の龍神・水神の《公開》、中世人の《龍》イメージ、古代中国の龍、と題して7つの報告があった。
 第235号で記したように、「古代中国の龍」の報告をされた上野祥史氏にお願いをして、紀元前4000年ころの墓に貝を敷き詰めた龍と虎の写真(『文物』1988年3月に掲載)を後日歴博へ行ってもらうことが出来た。

江戸東京博物館(江戸博)
 江戸博では、企画展「歴史の中の龍」(2011年12月3日~2012年1月29日)が開催された。
 本企画展では、来る辰年にちなみ、龍をかたどった武具や火事装束、工芸品の他、龍について書かれた江戸時代の典籍や錦絵などを展示し、日本人の龍に対する畏れ、憧れ、親しみなどのイメージの変遷を紹介している。
 十二支の中の龍・龍の力・粋な龍の3つの章だてにより39点が展示されていた。
 写真に紹介するものは、第1章で展示されていた、歌川国芳の「十二支見立て職人づくし(展示NO2)」。辰には藍玉づくりの「玉師」となった龍があてられている。龍の顎の下にある珠とかけられている。

 第2章では、「北斎漫画二・四編」などの書籍、鎧・兜、武家火事装束など、第3章の粋な龍では、龍が意匠された煙草入れや印籠等、庶民の日用品が展示されているのが目を引いた。

 歴博では「ミュージアムトーク」(1月13・20日)も実施され、30分間ほど、会場の展示品を説明してくれた。展示に関わった学芸員の方の説明は、展示の意図などを直接も聞くことが出来て有益だった。

エピローグ
 これまで三博について紹介してきたが、鴨川市郷土資料館でも企画展「彫られた龍・描かれた龍」(2011年12月17日~2012年2月26日)が開催された。同資料館は、「田園の美術館」とも呼ばれている。
 ここには、石川丈夫さんという学芸員が、地域に根ざした展示会をたびたび企画している。今回も辰年にちなんで、いすみ市内に残る波の伊八(武志伊八郎信由)の龍彫刻や狩野派絵画に描かれた龍の作品など、実物や写真パネルが展示され、規模は小さいが、毎回楽しませてもらっている。

 東博の展示物については、「サイバーギャラリー 東博の龍」として、以前に東博で見たものも含めて編集の途上のものを紹介する。歴博と江戸博の展示物については、「サイバーギャラリー」としてまとめるところまでは至っておらず、展示品のいくつかを「龍の謂れのかたち」に掲載している。【生部圭助】

サイバーギャラリー 東博の龍
編集後記集