シニアの活動の場所~障がい者にパソコンを教える~
【メルマガIDN編集後記 第268号 130615】

 誰に教わったか忘れてしまったが、「シニアにとって、《きょういく》と《きょうよう》が大切です」という言葉を、シニアやこれからシニアの仲間入りをする人達の集まりで言うと、皆は一瞬戸惑ったような不思議な顔をする。《今日行くところ》や《今日用がある》という意味ですよと言うと、納得したような顔つきに代わる。そして、今度会合があるので言ってみよう、という人まで現れる。シニアにとって、今日行くところや今日用があることは関心事には違いないが、その内容は千差万別だと思う。
 《NPOとらいあんぐる》の事業の一つとして、障がい者の就業支援活動を行っている《ルーパス》より、PC教室の講師を求められ、シニア情報生活アドバイザーのひとりの方が6月より活動を始めた。今回はこのお話の発端からその顛末について記してみたい。

  
ルーパスのリーフレット(部分)


ルーパスが提供するサービス(PC関連)


パソコン講座の実施状況 講師は大旗 弘さん


パソコン講座の実施状況
パワーポイントによるプレゼンの様子を撮影した映像を見ながら
発表の改善点などを指摘している

発端
 「障がい者の就業支援を行っている団体がパソコンの先生を探しているけど、IDNさんに適当な人はいませんか」という問いかけがあったのが発端である。
 パソコンの講師を求めていた《ルーパス》は、2011年5月に《NPOとらいあんぐる》の就労継続支援B型事業所として発足、研修プログラム(PC訓練)、作業訓練プログラム(軽作業・地域貢献活動・余暇活動支援)、就労準備プログラム(就労支援・社会人としての心得講座)などのサービスを提供している団体である。

募集の条件
 IDNのアドバイザーの方に声をかけてみますので、条件を教えてくださいという質問に対して、《ルーパス》の齋藤所長より提示された条件は下記の通りだった。
・名称:特定非営利活動法人とらいあんぐる 就労継続支援B型 ルーパス
・勤務地:東京都墨田区東向島3-37-8
・契約形態:業務委託契約
・業務内容:精神障がい者に対するPC訓練、社会人としてのマナーや社会性の教育及び、スタッフの支援補助業務
・契約期間:3ヶ月(初回のみ3ヶ月で更新、その後、1年ごとの更新)
・業務時間:週3日(月~金)、おおよそ9:00-16:00頃までの業務となります
※業務状況により短縮または延長あり。時間については応相談
・委託金額:一日xxxx円(午前/午後のみxxxx円)
・交通費:実費支給
・事業の概要について:主に精神障がいをお持ちの方に対する生活支援及び、就労支援を行っている社会復帰事業所です。利用登録者数20名程度。PC講習の対象者は~10名程度です
※事業の詳細、アクセス等についてはHPをご覧ください
とらいあんぐるホームページ:http://www.triangle.or.jp/

アドバイザーの方々の応募
 上記の内容で、アドバイザーの方々へダイレクトメールで案内したら、13名の方より応募と問い合わせがあった。メールには簡単なコメントが付けられており、以下にコメントを紹介する。

 昨年4月より今年3月まで都立XX高校でICTスタッフとして働いていた、近くでもあり是非応募したい、75歳をこの3月に迎えたがまだ元気、目下求職活動中の身でありこれまでの社会経験やコンピュータ関連業務の知識やノウハウを新たな分野で役立てたい、シニアドの資格を取った目的のひとつが《障がい者のサポート》だった、PCの訓練と社会人就労準備教育などを通じて障がい者の方の就労支援の一助にお役に立ちたい、といったコメントがあった。
 また、3月に公務員として高齢者のための施設での勤務を終了し今はフリー、報酬は要らないので正式に雇用された方のアシスタントとしてお手伝いしたい、というコメントもあった。

条件の再確認
 一人の採用に対して、私の予想をはるかに超える13名の応募と問い合わせがあり驚いた。当初は応募されたすべての方に面接をしてもらうことを考えていたが、応募した方々にとっても、面接をする側の《ルーパス》にとっても無駄が生じることを懸念して、《ルーパス》の齋藤所長にお会いしに事業所を訪れた。《ルーパス》の事業内容の説明を受け、PC講師に対する具体的な条件を確認した。提示された内容を下記にまとめ、応募された方へ知らせた。

・採用は1名
・勤務の曜日・時間帯:火・木・金の9時から16時頃まで
・契約期間:6月~8月は試行期間、9月~14年3月は最初の契約期間、14年4月以降も契約の継続が可能であること
・パソコン講座の対象:精神障がいのある方(フィジカルに不自由な方ではない)
・パソコン講座の内容(通常のPC訓練に加えて):PowerPointでのプレゼンテーション(プレゼンテーション能力と発表マナーの向上のための実践教育)→PowerPointへの対応力が求められている
PC以外:社会人としてのマナーや社会性の教育及び、スタッフの支援補助業務、ルーパスのイベント(レクレーションなど)への積極的な参加

 そして、IDNよりの条件として下記を提示した。
・採用された方はIDNへ入会してもらいます:正会員が望ましいが、賛助会員でも可
IDNの一員であることの自覚と責任を持ってもらいます

面接を受けた人
 上記のメールに対して、6名の方より面接を辞退したい旨の連絡があった。定められた曜日、週に3回通うのは無理、PowerPointに自信がない、別の仕事が決まった、などが辞退の理由だった。
 連絡のない人もあり、結局6名の方が面接に臨んだ。

大旗 弘さんの採用が決まった
 面接の結果、大旗 弘さんの採用が決定して、6月より勤務が始まった。私は、6月のはじめに、大旗さんの勤務の時間帯に合わせて《ルーパス》を訪問した。齋藤所長の案内で、1階で実施されている作業訓練プログラムとしての軽作業の様子を、そのあと、2階のPC教室で実施されていた《マナー・プレゼンテーション教育》を見せてもらった。
 テーマを定め、PowerPointで作成した資料を基に人前で発表することにより、プレゼンテーション能力と発表マナーの向上の為の実践教育がおこなわれていた。大旗さんは、スタッフの皆さんとともにプレゼンテーションに対する助言を行っていた。

エピローグ
 このお話を最初に聞いた時に、週に3回、朝9時からの仕事を希望する人があるのか疑問に思った。そして、13名の方より応募と問い合わせがあったのに驚いた。このような条件の仕事は無理だと思うのは、リタイヤ―後10年も経った人の考えることかもしれない。リタイヤ―して間もない人たちの勤労意欲は旺盛であることを私なりに理解した。
 そういえば、アドバイザー講座で、リタイヤ―直後の方や間もなく仕事が終わることになるので以後の生活の準備のために受講を希望される方も多いことへ通じるところがある。
 最近のIDNにおいては、《有償ボランティア》を基本として活動してもらっているが、ボランティアを基本としながら収入も期待できる仕事に対しての要望があることを、この度の事例より再認識した。

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