編集後記集
【メルマガIDN 第156号 081001】

龍のコンサート三昧2008 【その9】演奏会場が《ヴァルトビューネ》に変更になった
 今回の最後の訪問地のベルリンでは、2008年5月24日にコンサートが予定されていたベルリンフィルの本拠地《フィルハーモニー》が火事になる、というとんでもないアクシデントに見舞われた。
 コンサート会場が《フィルハーモニー》から、野外コンサート会場として有名な《ヴァルトビューネ》に変更になり、予想もしなかったコンサートを経験することになった。今回はその顛末について書くことにする。

 最初にこのニュースを知ったのは5月20日の夕方のこと。われわれのグループの一人が、TVのニュースでベルリンのホールから煙るが出ているのを見た、と言うのを聞いて驚いた。その後、コンサートの会場が、《フィルハーモニー》から《ヴァルトビューネ》に変更されたという情報が入った。

ベルリンでのコンサートへの期待
 今回のベルリンを訪れることへの魅力は、以下の5つがすべてそろっていることだった。その5つとは、ベルリンフィルの演奏、指揮者のクラウディオ・アバド、ピアノのマウリツォ・ポリーニ、曲目のひとつがベートーベンの《ピアノ協奏曲第四番》、演奏会場が《フィルハーモニー》。

 会場が《フィルハーモニー》から《ヴァルトビューネ》に変更になることは、ベルリンフィルとポリーニの音を聴くことができないことを意味する。第一報が入ってきた時は勿論、ドレスデンからベルリンへバスで移動中にコンサートの詳細が知らされると、皆から失望の声が上がった。一方、今回のツアーを企画した旅行社の添乗員(音楽好きの当人は便乗員と言っている)は、せっかく《プラチナチケット》を手に入れたのに、楽しんでもらえないと、残念がっていた。ここで言う《プラチナチケット》とは、高いお金を投じて手に入れたチケットであるという意味。

ベルリンフィルの本拠地《フィルハーモニー》
 《フィルハーモニー》はハンス・シャロウンの設計により1963年10月に完成した、ベルリンフィルの本拠地となっているコンサート・ホール。1986年に完成したサントリーホールと同じ《ワインヤード》形式のホールで、演奏席の背後に260席が配置されており、完成当時はユニークなホールとして注目された。全座席数は2,200席。柿落としは、1963年10月15日にカラヤン指揮、ベルリンフィルの演奏でベートーヴェンの《第九》が演奏された。完成当初の外観は、現在の黄色い外壁の仕上げとは異なっており、サーカスのテントに似ていることから、ベルリンっ子たちは《カラヤンのサーカス小屋》と呼んだ。
 《フィルハーモニー》については、《龍のコンサート三昧2006》の第3回に詳細に紹介しているので興味のある方はご覧いただきたい。

《フィルハーモニー》が火災に見舞われた
 5月20日午後2時(日本時間同日午後9時)ごろ《フィルハーモニー》に火災が発生した。出火当時、屋根裏で絶縁層の溶接作業が行われており、この火が燃え移ったと見られる。火は約6時間後に消し止められた。出火直前にホールで《ランチコンサート》が行われており、聴衆や楽団員ら約1000人が避難した。午後に予定されていたクラウディオ・アッバード指揮のオーケストラのリハーサル(今回われわれが予定したコンサートらしい)は中止された。ホール内に浸水や損傷はなく、高価な楽器類は安全な場所に保護された。運営主体のベルリンフィル財団は「当面の間(6月2日まで)、大ホールを閉鎖する」と発表。23日に予定されていたクラウディオ・アバド指揮のコンサートがキャンセルになり、別の会場に変更予定。

 火事のニュースの内容は以上のとおりである。そして、5月23日・24日・25日に予定されていたベルリンフィルの演奏会は3回分をまとめて,《ヴァルトビューネ》で実施することに決定した。また、主催者は9,000枚のチケットを追加発売した。チケットの話は現地でのガイドのKさんよりの情報。

《フィルハーモニー》の正面  06年6月撮影
 
屋根を修復中の《フィルハーモニー》  08年5月撮影
野外コンサート会場《ヴァルトビューネ》
 《ヴァルトビューネ》はベルリンの北西地区シャーロッテンブルクにある。それはヴァルト(Wald=森)、 ビューネ(Buehne=舞台) の名が示す通り、森の中に作られた野外コンサート会場。
 オリンピック・スタジアムに隣接している《ヴァルトビューネ》は、ヒットラーにより古代ギリシャの野外劇場をイメージして1935年に建設されたとのこと。収容人数は22,000人で、大規模のロックコンサートが開催されてきた。クラシックの演奏会にも使用されるようになり、1990年6月30日にダニエル・バレンボイムの指揮でベルリンフィルによる初夏の宵のコンサートが開催されて以来、ベルリンフィルのシーズン最後を飾る《野外ピクニックコンサート》として毎年恒例になっている。
 2008年9月28日(日) の朝8時より、《ワルトビューネ・コンサート 2007》がNHKのハイビジョンで放映された。ちなみに、2008年は6月22日に開催されている。

《ヴァルトビューネ》へ出かける
 予定通り午後の4時半にホテルを出発。夜には9度まで温度が下がるといわれ、防寒用にホテルのバスタオルを持参。途中、Kさんの案内で夕食のために食べ物と飲み物を買い込む。

 5時前にサッカースタジアムの西側の《ヴァルトビューネ》の入り口に到着すると、すでにたくさんの人が入場を待っていた。やがて人が動き出し、入り口をぬけてなだらかな森を抜け坂を下っていくと、やがて視界が開けて、テレビでおなじみの急な階段状の客席が現れ、その先に芝生のアリーナとテントを模した舞台が見えた。

 席は《フィルハーモニー》の座席のカテゴリー(席のランク)に対応させてゾーニングされている。ゾーンごとに入場者はチェックされ、各ゾーンの中は自由席になっている。拡声装置を使用する会場では、席の位置によって左右の音のバランスが極端に悪くなるので、中央通路に近いところに席を確保。席は木のベンチであり、防寒用に持参したバスタオルを敷いて席をしつらえ、7時の開演を待つ。開演まで1時間半ほど待つことになる。

 席に着いてから客席を見上げると、聴衆が増えており、客席の上部の東半分は夕日に照らされていた。芝生のアリーナに聴衆が入ることもあるが、この日はアリーナは芝生が緑に映えていた。

《ヴァルトビューネ》の全景  写真をクリックすると拡大します

客席を埋め尽くした聴衆   写真をクリックすると拡大します
 サンドウィッチやソーセージは当たり前、サラダやワインも持参し、中には陶器の食器にナイフやフォーク、そしてワイングラスまで持ってきてピクニックタイムを満喫する慣わしがあるという。周辺の席では、持参した食べ物を広げ、ワインを飲みながら歓談が始まる。
 途中で買い込んだ食べ物は貧弱だったが、こちらも腹ごしらえをして7時の開演を待った。【生部】

ベルリンの写真はこちらをご覧ください。


編集後記の目次へ
龍のコンサート三昧2008目次へ
龍と龍水のTOPへ