超高齢社会に期待される情報通信技術(ICT)と社会展開
【メルマガIDN編集後記 第285号 140301】

 《超高齢社会に期待される情報通信技術(ICT)と社会展開》と題した、URCF企画推進委員会シンポジュームに参加した。超高齢社会におけるシニアのあり様について秋山弘子氏が、ICTの範疇で、VR(バーチャル・リアリティ)の専門家として、廣瀬通孝氏が、五感技術による高齢者の心と脳の支援を意図する安藤広志氏の講演があった。高齢者の視点で研究されている専門家とICT技術(今回はVRを主に)の提供を目指す技術者集団とがコラボレーションするシンポジュームに興味を持って参加した。


高齢者人口の高齢化
2030年には、65歳以上の人口が32%を占める



自立度の変化パターン:男性の場合
(男性は72歳~74歳、女性は69~71歳より劣化が始まる)



高齢者の特性と労働資源
エントロピー:本来は《熱力学》の言葉
ここでは《秩序だっていないな状態》の意



労働力の仮想化
(細分化された高齢者の労働力をクラウド型メディアで再構成する)


ICTに基ずく高齢者支援イメージ
(個人の認知機能を補完・強化する)

超高齢社会の課題と可能性
 【秋山弘子氏:東京大学高齢社会総合研究機構 特任教授】
 秋山先生の講演は、地球丸ごと高齢化していることからは始まった。
2030年には、65歳以上の人口が32%を占めるようになる(図を参照)。人口構成としては、個人の長寿化、人口の高齢化により、《胴上げ型》から《騎馬戦型》、《肩車型》と変化してゆく。高齢者は従来より若かえっており、新しい人生区分としては、
75歳以後の後期高齢者のライフスタイルが重要視されてくる。

 秋山先生の研究成果である《自立度の変化パターン》が紹介された(図を参照)。全国の高齢者の20年の追跡調査による、高齢者の自立度の変化のパターンを示すものである。日常生活動作ADL(風呂に入る、短い距離を歩く、階段を2、3段上がる)、手段的日常生活動作IADL(日用品の買い物をする、電話をかける、バスや電車に乗って外出する)、この2つの指標より高齢者の行動を評価し傾向を示したもの。男性の70.1%は72~74歳から劣化が始まるが、秋山先生は、このポイントを5年あとへずらしたいとおっしゃっていた。

 秋山先生の講演では、《長寿社会でのまちづくり》についてのお話があった。シニアのセカンドライフにおける就労の場を作ることを、まちづくりの大きな要素として位置づけた。まちづくりとしては、循環型住宅、在宅医療システム、高齢者にも優しい移動手段、なども重要視し、ICTが安心と繋がりに資することを期待されている。

 要介護の虚弱なシニアの比率を10%、裕福なシニアの比率を10%と想定し、普通のシニア(80%)である後期高齢者の新しい価値観や生活行動の《セカンドライフの生き方モデル》を明らかにして、産官学の協働による超高齢社会への対応が求められる、また、新しい生き方モデルの具体的な提案がほしいとおっしゃっていた。

『高齢者クラウド』の取り組み
 【廣瀬通孝氏:東京大学大学院教授】
<VRとバーチャルリアリティ>
 バーチャルとは、「実際に存在しないが、機能や効果として存在する同等の」と言う意味。人間は外界とのやり取りをして生活しているが、人間と外界との間に電子メディアが介在することでその機能を実現する。

 バーチャルリアリティとは、「コンピュータが作りだした空間に入り込み、そこでいろいろなことを体験しようという技術のこと」。その名が社会に登場したのは1989年のことであるが、ルーツは宇宙技術である。

<高齢者の特質:エントロピーが高い複雑な労働力>
 高齢者には弱いところもあるが、高齢者の強い部分がある。それは、独自の専門知識がある、経験がある、俯瞰的に物事を見ることが出来る、鈍感力がある、など。
 しかし、高齢者を労働資源として考えたときに、時間的な制約(フルタイム就労が難しい)、空間的制約(長距離通勤が苦痛)、経験と異なった仕事は難しい、就労に求めるものが多様、体力として無理がきかない等、雇用としてはうまくいっていないところが多い。

<高齢者クラウドとは>
 65歳以上のシニアに社会の推進力になって頑張ってもらうことを目指しており、そのためにICTのツール(ここではクラウドというテクノロジー)に何ができるかを考えようというのが《高齢者クラウド》の主眼である。

<高齢者クラウドのアイディア:モザイク型就労>
 高齢者のスキルと要求されている仕事を把握し、この2つを基に高速でジョブマッチイングをするための方法としてクラウド基盤を用意し、クラウド型メディアでバッファリングすることで、何人かのお年寄りでフルタイムの労働力を合成することを可能にする。
 高齢者と雇用主間にWin Winの関係を構築できることを《高齢者クラウド》の作業仮設としている。

 何人かのお年寄りでフルタイムの労働力を合成することを《モザイク就労》と称しており、以下にいくつかのモザイク手法を紹介する。
・時間モザイク:複数の高齢者の時間調整をきめ細かく行って、等価的なフルタイム労働力を作り出す
・スキルモザイク:複数の高齢者のスキルをつなぎあわせて、任意のスキルを有する労働力を合成する
・空間モザイク:空間的に遍在する労働力を再構成する。遠隔就労はその一例

<クラウドソーシング企業の登場>
 高齢者の就労意識は高く、8割の人が70歳まで働きたいとの意識を持っている(秋山先生の講演)。また高齢者の働き方のスタイルは多様である。この様な時代背景の中で、シニアのためのクラウドソ-シングによるジョブマッチングを提供する企業も生まれている。

五感技術による高齢者の心と脳の支援に向けて
 【安藤広志氏:(独)情報通信研究機構 ユニバーサルコミュニケーション研究所 多感覚・評価研究室 室長】
 安藤氏は、人の知覚認知メカニズムの解明と多感覚(五感)技術の研究開発を行っている方。単一の感覚の機能低下が生じても、他の感覚情報で補完できる可能性を示唆された。

 ICTによる高齢者支援イメージとして下記の3点について言及された。
(1)認知機能センシング技術:心身の健康管理のために、行動・生体信号・脳情報などのセンシングにより、個々人の認知機能のレベルを推定する
(2)ヒューマンアシスト技術:個々人の様々な認知機能の低下を予防するとともに、機能低下のない感覚情報で補強・代替し、認知機能を補完・強化する
(3)五感情報通信技術:実感・体感を促進する五感情報通信技術を使って、個々人の時間・場所・能力・経験を生かし、高齢者の社会参加を促進する

エピローグ
 会社時代に、MVL(マルチメディア・バーチャル・ラボ 1997-2002)というプロジェクトに、開発推進協議会の幹事会社の窓口として参加したことがある。MVLは広域ネットワークを介して仮想空間を共有するための技術を開発するもの。
 それから10年以上が経過し、久しぶりに廣瀬先生のお話を懐かしく聞いた。高齢者クラウドにより高齢者が《TからMへ》変わってほしいというのが廣瀬先生の思い。Tと言うのはトレーラ(引っ張られる)、Mはモーター(自力で動く)と言う意味である。秋山先生の、自立度の下降の始まりを5年先送りしたいという願いにも、《高齢者クラウド》が資することを期待したい。


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