龍をあしらった工芸品
【メルマガIDN編集後記 第304号 141215】


饕餮文瓿(とうてつもんほう)


鐎斗(しょうと)


龍文朱箱(りゅうもんしゅばこ)


龍堆黄盆(りゅうついおうぼん)


唐三彩龍耳瓶


竜首水瓶(りゅうしゅすいびょう)


自在置物(じざいおきもの)


小龍景光(国宝)の倶利伽羅龍

 前号で、《龍をあしらった粋な小物》を紹介した。今回は《龍の謂れとかたち》で、《工芸品》として整理しているものの中よりいくつかを紹介する。工芸品とは「実用品に芸術的な意匠を施し、機能性と美術的な美しさを融合させた工作物」と言われているが、《民芸品》と明確に区別してはいない。
 《龍の謂れとかたち》に、祭祀に供する容器、薬や書類の収納容器、お盆、酒器、水指、鉄器、鉄製の文鎮、自在置物(じざいおきもの)、日本刀・小柄・鍔、鏡、鐘、竿頭飾(かんとうかざり)、櫛や笄(こうがい)などに龍をあしらったものを紹介している。たとえば、中国漆工には、彫漆・螺鈿・存星・漆絵・鎗金といった技法を駆使した貴重なものも含まれている。

饕餮文瓿(とうてつもんほう)

 この大きな蓋つきの器(瓿)は、儀式に使う酒や水を蓄えておくためのもの。表面をおおう文様の主役は怪獣のような饕餮文。 蓋の摘みには角を持つ龍が表わされている。各所に長い体の龍が表されている。今は錆びて暗い緑色だが、作られた当初は金色に輝いていた。東博の企画展《天翔ける龍 2012》にも展示されたが、現在は、東洋館で見ることが出来る。
【銅製、中国 商時代・前13~前11世紀】

鐎斗(しょうと)
 鐎斗とは、酒などを温めるための容器。底部に3足、側面に龍首形の把手が付く。注口をもつ鐎斗も少なくないが、本作には注口がない。地金は響銅に特有な黄白色で、側面と裏には挽き目が残っている。中国での響銅の本格的な出現を示す優品。
【青銅 南北朝時代・6世紀】

龍文朱箱(りゅうもんしゅばこ)
 朝鮮王国が江戸幕府の将軍に宛てた国書に付属した箱。当館には3合の箱があり、いずれも朱地に金泥で龍を描いている。この箱は中でも最も姿が美しく、17世紀の作と考えられる。中国の皇帝にしか許されないはずの五爪の龍であることが注目される。
【木製漆塗 朝鮮 朝鮮時代・17~18世紀】

龍堆黄盆(りゅうついおうぼん)
 中国漆工には、彫漆(ちょうしつ)・螺鈿(らでん)・存星(ぞんせい)・漆絵(うるしえ)・鎗金(そうきん)といった技法がある。これによって花鳥・楼閣人物・屈輪(ぐり)などの文様を表わす。東博館の龍文様の堆黄盆は堆黄の最も古い作例として有名。際立った栄えを見せる万暦期彫漆の中でも屈指の作品の一つ。
【法量:径22.0 高2.4、銘:「大明萬暦己丑年製」  明時代・万暦17年(
1589)】

竜首水瓶(りゅうしゅすいびょう)
 龍をかたどる蓋と把手を付けた勇壮な姿の水瓶。 胴には四頭のペガサス(天馬)を線刻で表す。胡瓶とも称される器形に、東洋と西洋にそれぞれ起源をもつ龍とペガサスの意匠がよく調和している。
 器胎の金銀の色彩対比とともに、緑色ガラス製の竜眼が光彩を放つ。法隆寺に伝わった水差し。
 このような長い首と下にふくらむ胴に把手を取り付けた器形は、ササン朝ペルシャに源流をもち、一般に「胡瓶(こへい)」と呼ばれる。唐時代中国の作と考えられてきたが、龍の造形や毛彫の手法などから、7世紀の日本製とする見方が強くなっている。
【7世紀 白鳳または唐時代、 銅製鍍金・鍍銀、 高49.9cm 胴径19.9cm、法隆寺献納宝物 国宝】

唐三彩龍耳瓶
 唐三彩龍耳瓶としては例を見ない大作。張りのある胴、がっしりとした龍耳は力強く、堂々としている。左右に把手が付く器形は、西方に起源がある。胴の三方には形抜きでつくられた宝相華文おおぶりなメダイオンが貼り付けられている。流れて入りまじる三彩釉の効果とあいまって、華麗な趣を与えている。
【高47.4cm 口径11.4cm 底径10.0cm 重要文化財】

自在置物(じざいおきもの)
 自在置物は、鉄や銅、銀、銀と銅の合金である四分一(しぶいち)などの金属を用い動物を写実的に作った美術工芸品。龍、蛇、鳥、魚、伊勢海老、海老、蟹、昆虫(クワガタや トンボ、蝶)などの手足などを実際に動かすことのできる機能までを追求している。
 龍は胴をくねくねと動かすことができ、脚や爪も曲げたり、伸ばしたりすることが可能。鳥は翼の開閉、頸をまわすことができる。自在置物は写実から可動にまで進んだ特殊な金工品として注目される。江戸時代の大名などが、眺めて触って楽しんだ。

 年号が記された現存作では、東博蔵の正徳3年(
1713年)の銘がある明珍宗察(みょうちん むねあき)の龍がもっとも古い。龍では最大で出来栄え優れている。明珍は甲冑師の家の出身で、とくに鉄の鍛錬と打出技術に長じていた。江戸時代中期の平和な時代にこうした置物の製作を行った。
【自在龍置物 明珍宗察の作 正徳3年(
1713年)】

小龍景光(国宝)の倶利伽羅龍
 小龍景光(銘:備前国長船住景光)は本来長かった刀身を磨り上げて短くした。結果、刀身にある龍の彫り物がハバキ(刀身を鞘に固定する物)からのぞいている感じになった。《のぞき龍景光》とも呼ばれている。
【元亨二年五月日。伝:楠木正成公佩用 全長:二尺四寸四分(73.93cm)】

 景光は長光の子といわれ、鎌倉時代末期の備前長船派の正系の刀工。この太刀は,小板目のよく約(つ)んだ地鉄に,直刃(すぐは)調の刃文で、景光の最高傑作にあげられる。表裏に棒樋を彫り、表の樋の中に倶利伽羅龍(くりからりゅう)と裏の樋の中に《梵字》を浮彫りとしている。

倶利伽羅龍

 不動明王が右手に持つ倶利伽羅剣には、倶利伽羅龍が巻きつき、剣先を呑みこもうとしている図が彫られている。この剣は降魔の剣とも呼ばれ、主尊として悪を罰するだけでなく、煩悩を打ち砕き、修行の効を達成させる慈悲の存在ともされている。龍は姿を変えた不動明王の化身とされる。

 梵字(ぼんじ)はインドで使用されるブラフミー文字の漢訳名。日本で梵字と言った場合は、仏教寺院で伝統的に使用されてきた「悉曇文字」(しったんもじ)を指すことが多い。

エピローグ

 今回紹介したものはすべて東京国立博物館(東博)で展示されたものを撮影し、展示の説明を基に作品を紹介した。
 龍楽者にとって、東博は龍の宝庫である。特に辰年だった
2012年の年初に開催された企画展《天翔ける龍 2012》では、東博が所有する龍のお宝がふんだんに展示されており、図集も出版された。これらも含めて、《サイバーギャラリー 東博の龍》で紹介しているので、興味のある方はご覧いただきたい。

《サイバーギャラリー 東博の龍》のカテゴリー(070 工芸品)よりご覧ください。

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