謂れとかたち
藤沢周平の『龍を見た男』

「龍を見た男」は藤沢周平の短編集のタイトル。
その第3話
頑固者で村の漁師仲間からはみ出してる源四郎は、海が荒れそうな時も皆が帰る頃に船を出す変わり者。
ある日、甥の寅蔵と漁へ出た帰りに、海に流した櫂を取りに海へ飛び込む寅蔵を
止めることができなかったために、寅蔵が渦に巻き込まれて死ぬ。
そんなことがあってしばらくの後、
信仰心のない源四郎は女房に連れられて、海の守護神・龍神を祭る「善宝寺」に参る。
二人が寺の裏手にある貝喰(かいばみ)池のそばへ行った時に、
源四郎は漁師の長年の勘で、池の底に魚でない何かが蠢く気配を感じる。

その時も、人が帰ってくる頃に出かける、と皮肉を言われながら日暮れ前に船を出した。
日が暮れて、漁に熱中しているうちに、霧が出て方向感覚を失ってしまう。
恐れを知らない男の胸に恐怖がわいてくる。
「龍神さま」と呟き、次の声は絶叫となる。
そのとき、地鳴りのような音を聞き、
一束の赤く巨大な火の柱の中を空に駆け上る長大なものの姿を見た。
その一瞬の火光の中に、見覚えのある陸地の地形を見る。


表紙のカバー

「龍を見た男」で藤沢周平は、「善宝寺」の謂れについて書いている。
江戸の町並みや海坂藩の城下町を実際に歩いているように書くのは彼の特徴であるが、
調べたことをこのように解説調で詳しく書いた例を知らない。
龍華寺で妙達上人の法話を聞く人々の中に人間の姿を借りた二龍神がいたこと、
後に、浄椿禅師が山号を龍沢山、寺号を善宝寺と改めて二龍神を祀ったこと、
その後、海運、漁撈に従う人々に深く信仰されたこと、
などが解説されている。

鶴岡には映画「蝉しぐれ」の撮影に使われた「旧風間家住宅・丙申堂」などもあり、
「龍を見た男」の舞台にもなっている「善宝寺」など、18箇所に案内板も設置されているそうである。
ザ・ファミリーの06年11月3日号の「旅紀行」に、
藤沢周平ゆかりの地として鶴岡が紹介されている。

070123/
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