龍の謂れとかたち


謂れかたち

葛飾北斎の「龍と虎」

「ギメ東洋美術館所蔵浮世絵名品展」を原宿の太田記念美術館で観た。
目玉は新発見の葛飾北斎の《龍図》。今回は太田記念館所蔵の《雨中の虎図》と対幅で展示されている。
北斎90歳の時に描かれたもの。
私はこの《龍図》を北斎のこの年の自画像とみた。

《龍図》は、01年にパリのコレクターからギメ東洋美術館に寄贈された。
05年、ギメ東洋美術館で開催された「太田記念美術館所蔵大浮世絵名品展」をきっかけに、
ギメの専門家と太田の永田副館長らの作品調査の過程において《虎図》と一対と確認された。
描かれた紙がほぼ同じサイズ、表装の裂(きれ)の模様に金の龍の模様がある、軸木の太さが一致、
並べると龍と虎の視線があう、雨が龍のいる天から虎のいる地へと続いている、
などがその理由。
虎図については、76年前に記録があるが、これまで《龍図》の存在は知られておらず、
今回初めて双幅で展示された。
北斎没年数え年90歳に制作されたこの双幅は、北斎最晩年の心象を表現しているといえよう。

左:飾北斎「虎図(雨中の虎)」120.5×41.5cm 太田記念美術館蔵
右:飾北斎「龍図」120.5×42.7cm フランス国立ギメ東洋美術館蔵
紙本、嘉永2年(1849)==================




北斎館にある《富士越龍》
小布施の北斎館にある、雄大な富士に黒雲とともに龍が昇天する北斎の《富士越龍》が有名である。
落款に、嘉永二己酉年正月辰ノ日と記されており、ギメ東洋美術館の《龍図》とほぼ同じ時期に描かれたもの。
北斎独特の幾何学的なかたちをした富士と雲を呼び昇天する龍には鬼気迫るものがある。
<絹本着色 一幅  署名「九十老人卍筆」 印章「百」  95.8×36.2cm> 

北斎館にある東町祭屋台の天井絵
《龍図》の顔を見て気がつくことは、
小布施の北斎館にある東町祭屋台の天井絵の「龍」の顔に似ていることである。
北斎館の展示室には2基の祭屋台が展示されている。
上町祭屋台の天井絵には、怒涛図2面「男浪・女浪」が、
東町祭屋台には、「龍・鳳凰」の天井絵がはめこんである。
北斎が85歳のときに半年かけて制作されたもの。

 《龍図》の構図は、縦に長く、龍の視線の先には、龍を睨む虎がいる。
東町祭屋台の天井絵の「龍」は、正方形の波の中に円弧を描いている。
この2つの絵が描かれたのは5年近くの時間差があるが、
どちらも龍の顔はよく似ており、人の顔をしている。
長い顔の形、厳つい鼻、きつい眼差し、長く伸びた2本のひげ、等々。

【限定】
070203/070222
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