神社仏閣を守護する龍の彫刻
【メルマガIDN編集後記 第317号 150701】

 神社仏閣を訪れたときにたくさんの龍の彫刻に出会う。私のホームページ《龍の謂れとかたち》では、彫刻(神社仏閣)というインデックスに、神社仏閣で出会った龍を一括して紹介していた。しかし、数が多くなり、自分自身がページを見たときに混乱をきたすようになった。最近になって神社仏閣の龍の彫刻を仕分けして整理した。
 今回は、寺院や神社の伽藍配置についても簡単に説明し、新たに整理した区分の中で、神社仏閣の中心となる寺院の本殿、神社の拝殿などに見る龍の彫刻を中心に紹介する。


向拝の構成栄福寺:千葉市)
水引虹梁の上の中備(なかぞえ)に龍の彫刻がおかれている
向拝柱母屋の本柱を紅梁で繋ぐ
水引虹梁の下を両側で支えているものを持送(もちおくり)という


海老虹梁(小網神社:東京都)
左向拝柱から左本柱にかかる海老虹梁に昇竜の彫刻がある



木鼻 伊佐爾波神社 松山市)
別木に彫刻した阿吽の龍頭を柱にとり付けてある



欄間(妙隆寺:鎌倉市)
欄間の左右の龍は中央を向いている


兎の毛通 (唐破風懸魚)(妙法寺:東京都)
龍の彫刻は、波の伊八の作


蟇股(湯島天神:東京都)
飛龍の彫刻はの授与所の軒下に置かれている


扁額(深川不動堂:東京都)
本堂の向拝の上部に置かれている


寺院の伽藍配置
 禅宗の大寺院の伽藍配置では、外部に面した総門から入ると三門、仏殿、法堂(はっとう)、方丈の順に並んで配されるのをその典型としている。京都の妙心寺や大徳寺はこの形がきれいに守られて現存している。鎌倉では、建長寺は典型に則っているが、円覚寺には、法堂がなく、伽藍配置図には法堂跡と表示してある。

 普段訪れるお寺では、鳥居をくぐり、山門をぬけて本堂に至る配置が多い。境内に置かれている配置図の案内によると、山門は総門・三門・仁王門・楼門と表示され、本堂も祖師堂・大堂などと呼ばれている。

神社の配置
 鳥居をくぐると、建物は拝殿・幣殿・本殿の順に並んでいる。拝殿(はいでん)は、祭祀・拝礼を行なうための社殿であり、祭祀の時に神職などが着座するところであるが、舞殿・神楽殿や社務所などを兼ねることもある。幣殿(へいでん)は中殿ともいい、本殿(ほんでん)と拝殿との間に位置し、祭儀を行い、幣帛(へいはく)を奉る社殿である。本殿は神主ですらめったに入らない神様の占有の建物。
 寺院では《本堂》という1つの建物で機能させるところを、神社では《本殿》と《拝殿》という2つの建物で機能させている。

向拝には沢山の龍が置かれている
 まず、龍がたくさん置かれている向拝(こうはい、ごはい)の構成について説明しよう。写真を参照:向拝の構成(栄福寺:千葉市)
 向拝とは、寺院建築・神社建築において、仏堂や社殿の屋根の中央が前方に張り出した部分のことをいう。仏堂や社殿入口の階段上に設けられる場合が多いことから《階隠(はしかくし)》ともいう。

 神社仏閣では向拝でお参りの後、以下に述べる虹梁(水引虹梁・海老虹梁)や木鼻、水引虹梁の上にある中備(なかぞえ)の龍の彫刻を、そして、扁額や天井にも龍の彫刻がないか見逃さないようにしている。

水引虹梁と中備

 向拝の屋根を支える柱を《向拝柱》という。左右にある向拝柱の上部を繋いでいる正面の梁を《水引虹梁》という。水引虹梁の上に中備(なかぞえ)として彫刻が配されることが多い。

紅梁・海老虹梁
 本殿の母屋の本柱と廂を支える左右の向拝柱にかかる梁を《紅梁》という。虹梁は構造的には梁と同じ役割で、屋根や天井の荷重を受け、母屋と庇を繋ぐ役割を果たしている。
 母屋の本柱と向拝柱に高さの差がある時に架けられるS字型の梁を《海老虹梁》という。虹梁に装飾が施されるようになったのは鎌倉時代に入ってからだと言われる。

木鼻の龍鼻
 木鼻とは木の先端という意味の《木端(きばな)》が転じて《木鼻》に書き換えられたもの。木鼻の取り付けられた場所で一番多いのは、向拝正面の水引虹梁が向拝柱の左右へ頭貫した部分、虹梁が向拝柱を頭貫し前方へ飛び出したところである。
 《大仏様木鼻》には象鼻・獅子鼻・獏鼻・龍頭などがあり、《禅宗様木鼻》には渦紋・植物紋などがある。室町時代には、彫刻美を誇るようになって、別木に彫刻した木鼻を柱にとり付けるようになり、《掛鼻》と称されるようになる。

欄間の彫刻
 本堂の中で参拝者が入ることが出来るのは《外陣(げじん)》まで、その奥に僧侶達が護摩祈祷時に座る内陣(ないじん)、内陣の奥に御本尊を奉安するために一段高く設けられた須弥壇がある。内陣は両側部分を脇間とか余間と呼んで、別区画とする配置が一般的である。
 外陣と内陣の境の上部が欄間で仕切られる。欄間の彫刻には吉祥を表す動物やその寺院の故事来歴などをみるが、その中でも龍の例は多い。
 欄間の龍については、お堂の中に入ることが出来なくて(予約が必要な場合もある)見せてもらえない、また見せてもらっても写真の撮影を許してもらえないことが多く、記録に残すことが出来なくて残念なことも多い。

唐破風の懸魚(げぎょ)
 破風(はふ)とは、切妻屋根の妻側の三角形の部分を言う。唐破風屋根とは、先に紹介した向拝の屋根にも多く見られ、曲線状の装飾的につくられた屋根を呼ぶ。唐破風の先端の破風の拝みの部分《兎の毛通 (唐破風懸魚)》のところに龍の彫刻を多く見る。

蟇股(かえるまた)

 梁などの水平部材の間をささえる部材で、蟇が脚を広げてふんばった姿勢と似ているところから蟇股と名付けられた。蟇股は当初、構造材と装飾材を兼ね備えていたが、後に装飾専用となり、制約を受けず、自由にデザインする様になる。左甚五郎作の日光東照宮の《眠猫》が有名であるが、寺社では吉祥の動物として龍の彫刻を見ることが出来る。

扁額
 寺院を訪れると、山門(総門・三門・仁王門・楼門)や本堂(祖師堂・大堂)に掲げられている、周辺に龍をあしらった扁額に出会うことがある。扁額の龍については、深川不動堂の本殿掲げられている扁額を紹介しているが、扁額は寺院の他、山車の扁額にもたくさんの龍を見る。また、横浜中華街の牌楼(パイロウ・門)の扁額の周囲が龍の彫刻で飾られている。

エピローグ
 今回は、神社仏閣の中心となる寺院の本殿、神社の拝殿や本殿に見る龍の彫刻に絞って紹介した。神社仏閣の伽藍や境内には、鳥居・門・塔・鐘楼・燈籠・手水舎・提灯等にもたくさんの龍の彫刻を見ることが出来る。これらについてもホームページ《龍の謂れとかたち》で紹介しているので興味のある方はご覧いただきたい。

 最近京都を訪れて、禅寺の伽藍の配置に注意して見て歩き、ネットでもいくつかの寺院を調べた。また、学生時代より使っている『日本建築史図集(日本建築学会編 彰国社刊 昭和36年第8版第3刷)』でも確かめた。ここには建長寺の詳細な伽藍配置が載せられている。
 伽藍配置について興味を持ったのは、どの建物のどの部位に龍がおかれているかを知るためだったが、ずっと昔に学んだ日本建築史の復習をすることにもなった。龍に出会い、その謂れを探ることが雑学をするきっかけになることも多く、興味の対象は広がり、とどまるところを知らない。

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